[サマリー]
・学校法人の貸借対照表について、注記が要求される事項は主に8つである
・学校法人会計基準において貸借対照表の注記は義務付けられているので、意味を理解した上でヌケモレのない注記が求められるといえる




学校法人が作成するべき財務諸表の1つに、貸借対照表(BS)があります。この貸借対照表には、注記しなければならない事項が8つあるのです。そしてこの8つの注記事項は、学校法人の種類(校種)に限らず記載が義務付けられています。

今回はこの学校法人の貸借対照表の注記事項について解説していきたいと思います。

※「そもそも貸借対照表って何?」という方はこちらの記事を読んでからだと理解がしやすいと思います。




学校法人の注記事項

学校法人の貸借対照表とは?

学校法人における貸借対照表とは、学校法人の財政状態のつり合いを示す計算書類です。


財政状態とはシンプルにいえば、「この学校は何をどんな方法で調達して、それをどのように使っているか」ということです。

例えば、
・自己資金で校舎建物を購入し、保有している
・借入金で土地を購入し、保有している

といった情報です。主に貸借対照表の右側(貸方といいます)は調達方法、左側(借方といいます)は使用状態を表しています。


ここで少し混乱しやすいのが、一般的な企業会計における貸借対照表と、学校法人における貸借対照表には一部違いがあるという点です。特に、学校法人に特有な項目である「基本金」や、科目を記載する順番などに違いがあります。

今回の記事で説明する注記事項を理解する上で、そのような違いを完璧に理解しておく必要はありませんが、知っておいて損はありません。気になるという方は以下の記事を確認してから読み進めてください。






それでは、貸借対照表の注記事項について説明していきます。


注記事項とは?

注記事項とは、財務諸表を読み会社や法人を理解する上で重要となる情報のことです。

一般企業では「個別注記表」として注記事項の記載が会社法で義務付けられています。学校法人の場合、学校法人会計基準で貸借対照表の末尾に8つの注記事項を記載することが求められます。


学校法人貸借対照表の注記事項

学校法人の貸借対照表について、注記が義務付けられているのは以下の8点です。

①重要な会計方針
②重要な会計方針の変更等
③減価償却額の累計額の合計額
④徴収不能引当金の合計額
⑤担保に供されている資産の種類及び額
⑥翌会計年度以後の会計年度において基本金への組入れを行うこととなる金額
⑦当該会計年度の末日において第4号基本金に相当する資金を有していない場合のその旨と対策
⑧その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項



この8つについて、貸借対照表への注記が義務付けられているのです。義務付けられているということで、もし該当しない場合でも項目を記載しないことは認められません。「該当なし」などと記載する必要があります。

それでは、8つの項目について簡単に説明していきます。

①重要な会計方針

重要な会計方針とは、「引当金の計上基準」および「その他の重要な会計方針」のことを指します。


一般的な企業会計と同じで、学校法人も複数の会計処理から1つの会計処理方法を選択した場合、原則としてその方法を継続する必要があります。つまり、学校法人が選択している会計処理方法を記載するのが、この重要な会計方針の注記なのです。

②重要な会計方針の変更等

重要な会計方針の変更等とは、先ほど説明した会計方針を変更した場合の注記事項のことを指します。


原則として、会計方針の変更は認められていません。自由に会計方針が変更できてしまう(例えば引当金の計上基準を自由に変更できる)と、法人が好きなように財政状態や経営成績を操作できることになってしまいます。また、過去の財務諸表との比較も難しくなってしまいます。

一方、会計方針を変更した方がかえって法人の財政状態や経営成績を的確に反映すると考えられるようなケースでは、会計方針の変更が認められます。こういった方針変更の際に、その旨を注記事項として記載することになるのです。

③減価償却額の累計額の合計額

一般企業の貸借対照表を見ると、貸借対照表の借方(左側)に固定資産が表示されており、貸方(右側)に「減価償却累計額」という項目が記載されているケースがほとんどです。このような表示方法を、各資産の総額から減価償却累計額を控除して表示するという事で「間接控除法」と呼びます。


一方、学校法人の貸借対照表を見てみると、貸方に減価償却累計額が見当たりません。
学校法人については、各資産の金額から減価償却累計額を差し引いた値を貸借対照表に記載しているのです。このように、資産から減価償却累計額を直接差し引いた後の額のみを表示する方法を「直接控除法」と呼びます。


この直接控除法の場合、資産の取得原価(いくらで買ったのか)と減価償却累計額を知ることができません。そこで、減価償却累計額を注記する必要があるのです。

ちなみに、減価償却累計額の各資産の内訳については固定資産明細表に記載されています。

④徴収不能引当金の合計額

徴収不能引当金とは、一般企業の会計でいうところの貸倒引当金です。


先程の減価償却累計額と同じように、徴収不能引当金についても金銭債権から直接控除して表示することになっているため、その額を判断することができないのです。したがって、徴収不能引当金について注記する必要があります。

⑤担保に供されている資産の種類及び額

一般企業の貸借対照表と同じく、貸借対照表の金額を見ただけでは担保に関する状況を知ることはできません。銀行から借り入れを行う場合など土地や建物を担保に供するケースは多いですが、担保に供されているか否かは資産の価値に大きく関わってきます。


したがって、学校の財政状態を示す事項として担保に供されている資産の情報を記載する必要があるのです。

⑥翌会計年度以後の会計年度において基本金への組入れを行うこととなる金額

貸借対照表に記載されている基本金の額は、当然ながら既に組入れを行った基本金の額です。つまり、貸借対照表の金額からは未組入高に関する情報を読み取ることができません。この⑥の注記として求められている「組入れを行うこととなる金額」とは、未組入高のことを表しています。


ここで、未組入高について説明します。例えば、600万円の土地を購入としましょう。ここで、600万円のうち200万円は自己資金で、400万円は銀行借入で調達したとします。

すると、まず土地の取得の際に200万円の1号基本金が組入れられます。400万円分は自己資金での取得ではないので、この段階では基本金に組入れが行われません。つまり、その400万円が未組入高となるのです。


基本金についてよくわからないという方は、以下の記事をご確認ください。



⑦当該会計年度の末日において第4号基本金に相当する資金を有していない場合のその旨と対策

4号基本金とは、学校の運転資金に関わる基本金のことです。

つまり、この4号基本金に相当する資金を有さないという状態は、資金繰りにおいて非常に深刻な問題を抱えている可能性が高いことになります。したがって、貸借対照表の注記事項として記載が義務付けられているのです。

⑧その他財政及び経営の状況を正確に判断するために必要な事項

ここまで挙げた7つの項目以外にも、重要性がある(貸借対照表を読む人にとって、学校の経営判断に大きく関わる情報である)と認められる情報については、注記することが義務付けられています。例えば、以下のような項目です。


・有価証券の時価情報
・学校法人の出資による会社に係る自校
・関係当事者との取引
・所有権転移外ファイナンス・リース取引



他にも様々な事項がありますが、こういった事項に重要性があると認められる場合に、貸借対照表への注記を行う必要があります。

終わりに

以上、学校法人の貸借対照表について、注記しなければならない事項を説明しました。学校法人会計基準は一部経費の分類など担当者の裁量に任せられる部分も大きいですが、注記事項については記載が義務付けられています。注記すべき事項についてしっかりと意味を確認し、漏れなく記載することが重要です。

また一方で、作成した財務諸表を活用した財務分析や経営課題抽出については、会計基準では要求されていない事項になります。こういった部分は法人外部の第三者的目線が重要となってきますので、お困りの際はぜひ我々専門家に御相談頂ければと思います。

ご相談はこちらのホームページからお待ちしております。




事務所代表プロフィール

名前:木村 成(きむら じょう)

保有資格:
・中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格者)
・税理士 ・行政書士(行政手続、法律書類作成の国家資格者)
・日商簿記1級
・認定経営コンサルタント
・ファイナンシャルプランニング技能士2級
・中学、高等学校一種教員免許(元高校教員)

業務内容:
首都圏を中心に、学校や教育関連企業等の中小企業支援を業務として行っている。経営コンサルタントとしては、教育現場の業務改善や販路開拓のコンサルティングなどを中心に活動。行政書士としては、会社設立の代理や営業許認可取得の代理を中心に活動している。中小企業診断士・行政書士の2つの資格を活用して、経営面と法務面の2つの視点から、組織・事業の業務改善と拡大支援に励む。


[まとめ]
・学校法人の貸借対照表について、注記が要求される事項は主に8つである
・学校法人会計基準において貸借対照表の注記は義務付けられているので、意味を理解した上でヌケモレのない注記が求められるといえる