昨今、教員の労働時間などがしばしば問題視されます。実際に、教員の労働時間は非常に長いのですが、給与や年収面では比較的待遇が高い事も知られています。初任給で400万円というのは、一般企業と比べても十分な好待遇です。


当記事では、教員の生涯年収のモデルケースについて、「年齢別」「役職別」に解説していきたいと思います。

・現在東京都の教員として働いており、今後のキャリアプランやライフプランをお金の面から立てたい方
・現在東京都の教員を目指しており、年収や退職金などを含めた生涯年収が知りたい方


といった方々に、ぜひ参考にして頂ければと思っております。生涯年収を知ることは、住宅ローンや子どもの教育資金など、人生における大きな出費の金額を決定していく上で必要不可欠ですので、参考にして頂ければ幸いです。


念のためですが、この記事は2020年1月時点の教育委員会・人事委員会・条例等の公開情報から作成しておりますので、ご留意ください。

なお、教員の年収やボーナス、時給については下記のリンク記事をご覧ください。(生涯年収の計算にはこれらが必要となりますので、これらの記事を前提に解説を進めていきます。)


東京都教員の生涯年収

東京都教員の給与(月収)

退職金の計算は、給与をベースとして行われるため、まずは東京都教員の給与(月収)について解説をします。

東京都教員の給与は、「給料+手当」で構成されます。

そしてそれぞれ、
・給料:給料表額+教職調整額
・手当:地域手当+義務教育等教員特別手当(+管理職手当など)

で構成されています。

一言でそれぞれについて説明すると、
・給料表額:勤続年数や成績で決まる金額
・教職調整額:残業代の代わりに支給される金額
・地域手当:物価の違いなどを考慮して支給される金額
・義務教育等教員特別手当:昔のなごりで支給される金額
(・管理職手当:副校長以上の役職に支給される金額)

ひとまず、上記の5つの要素を足し算することで、給与(月給)を求めることができると思っていただければ問題ありません。

図式化すると、以下のようになります。

東京都教員の給与構造



上図が給与計算のイメージです。もし、給与計算や等級号棒など詳細について知りたいという方は、こちらのリンクの記事(給与計算の詳細解説)をご確認ください。

ここまでお読みになられた方は、「いきなり難しそうだな…」と思われたかと存じますが、特に重要なのは上記の「給料表額」です。

ですので、まずは給料表額について詳しく解説していきます。

東京都教員の給料月額(給料表額)

給料月額(給料表額)とは、東京都人事委員会が公開している「東京都職員給料表」の金額のことです。こちらのページで公開されています。(東京都職員給料表ページ
「給料月額」というと、給与や月収と見分けが付きづらいので、「給料表に書いてある金額」という意味で「給料表額」と呼んだりします。


この給料表額を年齢別・役職別にまとめたのが以下のグラフです。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 図1-6-1024x531.jpg

※上記のグラフ作成(計算)にあたっては、「23歳入都(教員になる)」「最速昇格(等級・役職上昇)」「毎年4号昇給」としています。


グラフを見てみて、いかがでしょうか。「主任教諭から主幹教諭への昇格」と「主幹教諭から副校長への昇格」が大きいことが分かります。これはそれぞれ、若手のモチベーション向上、管理職昇格への誘因であることが示唆されます。現状、副校長になるための選考は倍率が1.1倍と人気が低迷しているため、この部分に大きな昇給幅をつけなければという意図があるということです。

「意外と金額が小さいな」と思った方もいるかもしれませんので改めて言いますと、上記のグラフの金額は「月給」ではありません。月給の算定の基礎となる「給料月額」(給料表額)ですので、ご留意ください。
管理職と非管理職との金額差が小さいのも、管理職手当が給料表額の中には入っていないことによるものです。


東京都教員の給与(月給)

それでは、先ほどの図をもう一度見てみます。ここまで、下図の給料表額について計算してきました。

東京都教員の給与構造


給与(いわゆる月給)は、この給料表額に3つの要素を足し算する形で求めることができます。「等級号俸で決定」など難しい単語が書いてありますが、給料表額が決まればこれらの数値もほぼ自動的に決定します。したがって、ここでは「さっきの給料表額をもとにして月給が決まるんだな」くらいに思っていただければ問題ありません。もっと詳しく知りたいという方は、下記のリンク記事で詳しく説明しておりますので、確認して頂ければと思います。

東京都の教員の給与と年収を解説【詳細版】



では、これらを基に計算した月給をグラフに表すと、以下のようになります。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 図2-3-1024x500.jpg

一目で、副校長昇格に伴う昇給幅が非常に目立っていることが分かります。

これが、副校長のなり手不足に対して東京都がとった戦略ともいえます。
逆に、ほとんど全教員が受ける主任教諭選考については、合格して主任教諭になっても年収の増加幅がごく僅かでることも分かりますね。23歳の時に給与が25万円でも、主任教諭として定年を迎えれば給与は48万円程度に留まり、大きな上昇が見込めないのです。

では、生涯年収を計算する前の最終段階として、年収のグラフを確認したいと思います。
年収は期末・勤勉手当について4か月(副校長・校長は3か月)という条件を置いて概算することができるため、上記で求めた給与×16か月分(副校長・校長は15か月分)を計算していきます。

東京都教員の年収

それでは、年収について役職別に勤続年数との関係をグラフで見てみましょう。
ここで、年収の計算額は「給与×16か月(副校長・校長は15か月)」で計算しています。つまり、期末・勤勉手当(ボーナス)については概算に留まっていることにご注意ください。


基本的には給与をそのまま大きくしたものが年収なので、役職間の差は先ほどと大して変わっていないといえます。


このグラフより、最終的な東京都教員の定年時の年収はおよそ、

・教諭(60歳)年収:757万円
・主任教諭(60歳)年収:824万円
・主幹教諭 (60歳)年収:885万円
・副校長(60歳)年収:1,034万円
・校長(60歳)年収:1,130万円



前後であるということが分かりました。なお、例えばグラフだけ見ると、「39歳で副校長になれば年収870万円か!」となりますが、最速出世のケースですのであくまでも理論の上での計算となることご留意ください。


年収計算については、このような形になります。それでは、本題の生涯年収の計算をしてまいります。

まずは、退職金を含めない生涯年収について計算したいと思います。これは非常にシンプルで、上記で説明した年収を年齢ごとに退職時まで足し合わせていくだけです。


東京都教員の生涯年収(退職金を除く)

それでは、東京都教員の退職金を除いた生涯年収について解説します。重ねてになりますが、生涯年収は、先ほどのグラフ(年収のモデルケース)を定年までそれぞれ足し合わせていく事で計算することができます。

結果は、下記の通りです。


・教諭:30歳時点3,700万円、40歳時点9,800万円、50歳時点17,000万円、60歳時点(生涯年収)24,600万円
主任教諭:30歳時点3,700万円、40歳時点10,000万円、50歳時点17,700万円、60歳時点(生涯年収)26,000万円
主幹教諭:30歳時点3,700万円、40歳時点10,200万円、50歳時点18,500万円、60歳時点(生涯年収)27,000万円
副校長:30歳時点3,700万円、40歳時点10,500万円、50歳時点20,100万円、60歳時点(生涯年収)30,400万円
校長:30歳時点24,600万円、40歳時点10,500万円、50歳時点20,600万円、60歳時点(生涯年収)31,800万円

といった形です。
※例えば、「30歳時点」というのは、23歳から30歳までに稼いだ年収の合計という意味です。したがって、「60歳時点」がいわゆる生涯年収となります。
また、例えば「副校長」というのは、かなり順調に副校長になる場合のモデルケースを表しています(前述の通り、「最速昇格(等級・役職上昇)」「毎年4号昇給」を前提としています。)。なお、「30歳副校長」というのは、かなり順調に副校長になる人が30歳の時までに稼いだ年収の合計を意味しており、当然ながら30歳で副校長になるという意味ではありませんのでご留意ください。)


グラフを見て分かる通り、教諭として60歳まで勤務した場合には生涯年収は直線的に上昇していく一方、主幹や副校長に昇格することにより30歳後半ごろから生涯年収の増加ペースが上昇ていることが分かります。

退職金を除いた生涯年収として、教諭のままでも2億5千万円ほど稼げるというのは教員の魅力ともいえますね。

それでは、最後に本題である「退職金を含めた生涯年収」を確認して参ります。退職金を含めた生涯年収の計算は、上記の退職金を除いた生涯年収に退職金を足すことによって算出します。


東京都教員の退職金

では、まず退職金を計算していきます。退職金の計算式は、以下の通りです。

退職手当=退職手当基本額(退職時給料月額×支給率)+退職手当調整額

聞きなれない言葉も多いかと思いますが、「退職手当調整額」とは、定年等退職者のみに支給されるものです。退職手当基本額に比べ金額が小さいため、ここでは割愛します。
つまり、退職手当の計算式は、おおよそ以下のようになります。

退職手当=退職時給料月額×支給率


具体的に「退職時給料月額」や「支給率」がどのようなものかについては、下記のリンク記事で詳細を説明していますので、気になる方はご参照ください。当記事では、退職金額の結論のみをグラフでまとめて参ります。


退職金のモデルケースをグラフ化したものは、以下のようになります。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: image-1024x454.png


上のグラフが年齢別・役職別の退職金になります。いくつか、役職ごとに退職金のモデルケースの数値を記載します。

・23歳教諭(勤続1年):177,570円
・31歳主任教諭(勤続9年):2,191,860円
・33歳主幹教諭(勤続11年):3,118,140円
・39歳副校長(勤続17年):6,870,500円
・43歳校長(勤続21年):10,312,050円



これで、全ての必要な数値が整いました。最後に、東京都教員の退職金を含んだ生涯年収について解説して参ります。

東京都教員の生涯年収(退職金を含む)

退職金を含む生涯年収は、ここまでに説明した「退職金を除く生涯年収」+「退職金」によって算出します。実際にモデルケースとして算出したものが以下のグラフです。


いかがでしょうか。「思ったよりも高い!」といったイメージの方も多いのではないかと思います。やはり30歳後半ごろからの昇格(役職の上昇)により、生涯年収のカーブの上昇率も高くなっていることが確認できます。また、副校長と主幹教諭の間に大きな生涯年収の差があることも確認できます。

それぞれの役職・年齢ごとに退職金のおおよその金額を以下に記載します。

・教諭:30歳時点3,900万円、40歳時10,500万円、50歳時点18,300万円、60歳時点(生涯年収)26,200万円
主任教諭:30歳時点3,900万円、40歳時点10,700万円、50歳時点19,100万円、60歳時点(生涯年収)27,700万円
主幹教諭:30歳時点3,900万円、40歳時点11,000万円、50歳時点20,000万円、60歳時点(生涯年収)29,200万円
副校長:30歳時点3,900万円、40歳時点11,300万円、50歳時点21,700万円、60歳時点(生涯年収)32,400万円
校長:30歳時点3,900万円、40歳時点11,300万円、50歳時点22,300万円、60歳時点(生涯年収)34,000万円


このような形です。つまり、どのような役職であろうが、教員として新卒から勤務し、平均的な昇給(毎年4号昇給)をしていれば、生涯年収として2億6千万円以上は稼げるといったイメージとなります。そして、最速ペースで昇格(役職を上げること)していけば、3億4千万円程度の生涯年収が稼げるといった形となります。

先程の退職金を除いた生涯年収としては、少し高めくらいなイメージだったかと思いますが、この退職金を含めた生涯年収の値を見ていかが思いましたでしょうか。「結構高いな…」というイメージなのではないかと思います。それもそのはずです。フルタイム、正社員の場合の生涯年収の平均値は、男性で約2.7億円、女性で約2.2億円との統計調査結果があります(独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2019-労働統計加工指標集-」より)。この数値は退職金を含んでいませんが、退職金があまり出ない企業も多いですし、この調査は大卒以上のフルタイム正社員を続けた人のみを対象としているため、日本人全体の生涯年収はこれよりかなり低い数値となると考えられます。

そもそも公務員の給与は民間企業の平均賃金などをベースに決定されていますし、教育公務員は区役所などに努める地方公務員より給与が高いため、一般的には「高め」といったイメージになるかと思います。


ライフプランや相続に関するお悩みは当事務所にご相談ください


以上、東京都教員の生涯年収ついて解説しました。東京都以外の教員もおおよそこのような年収カーブになると思いますので、初任給の割合を生涯年収に乗ずるなどして、ご自分の自治体の教員の生涯年収を概算することができるかと思います。参考にして頂ければ幸いです。


なお、当事務所は、税理士や1級ファイナンシャル・プランニング技能士(1級FP技能士)として、相続税や贈与税の申告、相続に関する税金シミュレーション、相続前の税金対策、遺言書作成支援などを業務として行っています。

教員として働いていく上で、ご家族の相続が発生した、将来の相続に備えたい、遺言書を作成したい、ライフプランを考えたい、等々のお悩みがあると存じます。教員として働きながらこれらの対策を専門的に行っていくのは、時間的観点からも、知識的観点からも難しく、かつリスクが高いといえます。

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