[サマリー]
・経営戦略の立案は、理念の明確化から戦術実行に至るまでの1つの要素である
・あいまいな戦略の立案は、塾の経営状態や財務状況の悪化に直結するリスクが高いといえる
学習塾や生活学習塾、いわゆる教室ビジネスのマーケティング戦略は他の業種と比べて異なる点が多々あります。また、自塾の生存領域が明確であるため、しっかりとした戦略立案が必要となってきます。
今回は、学習塾や趣味に関する塾など、塾はどのようにしてマーケティング戦略を立てていくべきかについて説明したいと思います。
塾のマーケティング戦略
戦略立案のプロセス
学習塾としてどのように戦略を立てていくべきか、戦略立案のプロセスは例えば以下のような流れです。
経営理念の明確化→経営ビジョンの決定→経営計画の策定→経営戦略の立案→経営戦術の実行
このようなステップを踏み、具体的な経営戦術を実行していくことになります。経営戦略の立案は、あくまでもこの一連の流れの中の1ステップであることに注意が必要です。
それでは、各ステップについて解説していきます。
経営理念明確化
経営理念は、学習塾の現在から将来に至る在り方そのものであり、経営活動の最上位に位置する概念です。
では、経営理念はどのようなものを掲げるべきでしょうか。
まず、会社として重要なのは利益創出に関する考え方です。会社とはそもそも、生み出した利益を株主に還元するという機関であるため、利益創出は前提にある考え方になります。
一方で、顧客に関する理念は利益以上に重要な考え方になります。産業構造や消費者ニーズの変化から「作れば売れる」という時代は終わり、いかに消費者によりそった商品やサービスを提供できるかが会社存続のカギです。そういった現状を踏まえ、顧客や社会に対する経営理念の重要性は益々大きくなっています。
ここで一例として、東京個別指導学院(TKG)の経営理念を見てみましょう。
やればできるという自信
チャレンジする喜び
夢を持つ事の大切さ
私たちは
この3つの教育理念とホスピタリティを
すべての企業活動の基軸とし
笑顔あふれる「人の未来」に貢献する
これが、東京個別指導学院の経営理念です。前半の3項についてはまさに顧客目線の理念となっています。学習塾が顧客にサービスを提供するという機能を持つ以上、顧客へ向けた経営理念は非常に重要です。
この経営理念の内容によって、理念の下流である「ビジョン」や「戦略」が大きく変化していくのです。
経営ビジョンの決定
経営ビジョンとは、経営理念に到達するための具体的方針のことです。
「いつまでになにをするのか」「どんな結果を出すのか」といった内容にまで踏み込むケースが多いため、抽象的な経営理念に比べ具体的な内容を決定することになります。
例えば、先ほどの経営理念の例で「3つの教育理念を基軸とし」という記述がありました。3つの教育理念とは、「やればできるという自信」「チャレンジする喜び」「夢を持つ事の大切さ」という内容でしたが、このレベル感では非常に抽象的です。そこで、経営ビジョンにおいて、どのようにして児童生徒に自信をつけさせるのか、チャレンジする喜びを知ってもらうのか、というような具体的内容を策定するのです。
このような抽象的内容の具体化がなければ、経営理念は完全に陳腐化します
ふわっとした目標だけを掲げ、実際なにをすればよいのかは社員には知らされていない。このような状態では、社員が経営理念に向かった活動をしていくことはできません。
全社員が同じ目標に向かった活動をしていくために、経営理念をビジョンに落とし込むことは重要なのです。
経営計画の策定
経営計画とは、ビジョンを更に具体化し年度ごとの数値目標などを立てることを指します。
一般に、「短期経営計画」「中期経営計画」「長期経営計画」の3つに分類されます。それぞれ、
・短期経営計画:次年度の経営計画
・中期経営計画:3~5年分の経営計画
・長期経営計画:6年分以上の経営計画
このように使い分けれれるケースが多いです。
個人的に、実務においては中期経営計画まで、それも翌3年度分までの経営計画を策定することが重要だと思っています。
計画とは、経営理念やビジョンを達成するための道しるべです。道しるべがなければ事業を適切に行っていくことはできませんが、実績と道しるべである計画は必ずズレが生じることになります。そのズレは、期間が長くなればなるほど大きくなっていきます。
つまり、5年分の計画を策定したとして、2~3年経った頃には5年度の数値計画は大きく修正の必要が生じてしまっているケースがほとんどなのです。
ひと昔前なら長期経営計画にもメリットは大きかったといえますが、技術革新や市場環境変化が目まぐるしい現代においては、3年分の経営計画まで作成すればひとまず十分です。人的資源や時間的資源が豊富な大企業なら長期経営計画の策定も当然視野に入りますが、中小企業なら3年分の計画を立てることをまず優先してください。
経営戦略の立案
経営理念→経営ビジョン→経営計画の策定が終わった後、とりかかるのが経営戦略の立案です。ゼロベースで経営戦略を立てるとなると非常に難しいですが、ここまでに作成した経営計画を基にすれば、経営戦略の具体的なイメージも湧きやすいかと思います。
例えば、「3年間で売上高2倍」というような経営計画を策定していたとすれば、その売上高2倍の要素を考えます。例えば、受講生徒数を2倍にするのか、単価を引き上げるのか、両方を行うのか、といった具体です。
そして生徒数を2倍に増やすとなれば、どのようにして増やしていくのかを考えます。ざっくりいえば、競合他校と比較した自校の優位性を分析し、優位性を活かした受講プラン等を考え、それについて各種媒体でプロモーションを仕掛けるというような流れも1例として考えられます。
このように、経営計画をどのようにして達成するか、自塾としての戦略の方向性を示すのが、経営戦略なのです。
先程、競合他校と比較した自校の優位性を確認するというような表現を用いましたが、このような他校との比較は非常に重要です。他業界に比べた塾の特徴は、顧客が年齢的に限られてくるという点です。学習塾であれば当然学齢期の子供だけですし、資格取得や音楽教室などもある程度顧客の年齢や性質は限られてきます。
つまり、顧客が少ない分、他校との競争が必然的に激しくなるのです
そして、ここでいう競争とは主に顧客の取り合いになります
顧客が限られていれば、その限られたパイを自校が取るということは、他校のパイを奪うという事に他ならないのです。したがって、塾などの教室ビジネスでは競合校との比較が特に重要となります。
ここで、参考として塾や学校が経営戦略を立てる上での視点(フレームワーク)を以下の記事で紹介しているので、ご確認頂ければと思います。
①成長ベクトル論
②PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)
③PLC(プロダクトライフサイクル)
④差別化戦略(ポーターの差別化戦略、差別化のパターン)
⑤競争地位別戦略
⑥ランチェスター戦略
⑦ドミナント戦略
⑧STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)
経営戦術の実行
経営戦術とは、組織の機能レベルで経営戦略を実行していくための具体策のことです。
例えば、経営戦略で競争地位別戦略に基づき、競合する塾と〇〇の点で差別化したサービスを顧客に提供していく、というような戦略立案を行ったとしましょう。しかし、この段階ではあくまで差別化の方向性が示されたにすぎません。現場の講師や職員にとってみれば、どのようにして行動すればよいのかは分からないのです。
したがって、今までとどのような点で違う授業を行うのかや、新たにどのような対応サービスを行うのかなど、実行すべき内容を現場レベルまで言語化しなければならないのです。
このように、現場レベルに経営戦略を言語化したものが経営戦術になります。
ここまでやって、初めて経営理念が現場行動まで一貫してつながるのです
裏を返せば、経営戦術まで実行しなければ、経営者が掲げる経営理念と現場の行動は一致しません。経営理念→経営ビジョン→経営計画→経営戦略→経営戦術 という一連のステップは、どれがかけれも塾一体となった行動は達成できないのです。
終わりに
以上、塾について経営戦略の立案ステップを解説しました。経営戦略というのはそれ自体が単体として示されるのではなく、理念から戦術に至るまでの1つの要素であるという事を分かって頂ければ幸いです。
そして、特に経営計画の策定や経営戦略の立案には専門的な視点が必要不可欠です。経営計画では、どのように何を伸ばし何年後にどれだけの数値になるのかという管理会計の知識が、経営戦略では他校とどのように戦うのかという企業経営の知識が必要となります。思いつきやイメージでこれらを策定・立案することは、塾の今後にも関わり大きなリスクを伴います。
このような経営計画の策定や戦略立案は、我々経営の専門家である中小企業診断士にお任せ下さい。専門家としての知見や経験を活用し、貴校に最適な計画・戦略策定の支援を致します。
経営計画や戦略に関してお悩みの際は、ぜひご相談ください。
ご相談はこちらのホームページからお待ちしております。
「木村税理士・行政書士事務所」
[まとめ]
・経営戦略の立案は、理念の明確化から戦術実行に至るまでの1つの要素である
・あいまいな戦略の立案は、塾の経営状態や財務状況の悪化に直結するリスクが高いといえる