[サマリー]
・ 教員勤務実態調査より、教員の残業時間は1か月でおよそ80時間という非常に深刻な結果であることが示唆されている
・残業時間を本質的に削減するために重要なことは、残業時間上限の決定ではなく、業務改善の組織的な実行であるといえる




学校に勤める管理職や先生方は毎日、業務の多忙さを体感していらっしゃると思います。実際、文部科学省が行った調査でも、学校教員の残業時間は所謂「過労死ライン」を超えているケースも往々にして見られるということが分かっています。

今回は、学校教員の残業時間とその規制、業務改善の重要性について考えたいと思います。

教員の残業時間と業務改善

教員の残業時間調査データ

文部科学省が2016年度に公立学校の教員を対象に行った、残業時間の調査があります。「教員勤務実態調査」というものです。この調査データによると、教員の週当たり総労働時間は、

・小学校教員:57時間25分
・中学校教員:63時間18分


という結果です。1日当たりの所定労働時間を約8時間とすれば、1週間当たり20時間程度の残業が見られる可能性があるということです。1か月あたりで考えると、およそ80時間となります。

さらにこの調査のポイントは、集計に持ち帰りの仕事が含まれていないという点です。


例えば中学校教員の総労働時間63時間18分という結果に、持ち帰り仕事は含まれていません。つまり、実際に授業準備やプリント作成を自宅で行っているならば、実質の労働時間はさらに伸びることになります。

先生方なら納得されると思いますが、持ち帰りをしない先生はごく一部です。私自身、教員時代は基本的に持ち帰りをしていました。教員は残業代も発生しないため学校に残り働く意味が薄く、事務仕事なら家でやろうと考える先生も多いためです。


ちなみに、「過労死ライン」は月80時間以上の時間外労働の状態を指しますが、小学校で3割、中学校で6割の先生方がこの過労死ラインに達しているとの結果が出ています。(同じく要因勤務実態調査より)


このように、教員の残業時間は極めて長い状態となっていることが調査からわかっているのです。

教員残業時間の上限方針

2019年5月、東京都教育委員会が方針を発表しています。それは、時間外労働時間の上限の目安を「1か月で45時間、1年で360時間」と定めるというものです。

ここで重要なのは、あくまでもこの上限は「方針」であるということです。法的拘束力はありません。



では、残業時間の上限を方針で決定したとして、学校の残業時間は減少するでしょうか。


そんなことは絶対に起こりません



正しくいうならば、多少は減少するかもしれません。今まで業務終了後ものんびりと学校に残っていたごく一部の教員が、方針に従うように素早く帰宅するようになり、その人の分の残業時間は減るかもしれません。

ですが、それ以上減ることはありません。もともと残業代が発生しないという性質上、学校に残りたくて残っているような先生方はいません。当然のことですが、仕事が終わらないから残っています。


その状態で上限方針だけ決定したところで、根本的改善には全くつながりません



例えば、このようなケースはあるかもしれません。校長や管理職が良い数字を作りたいがために、月45時間を超える残業を決してしないように先生方に徹底し、仕事が残っていても残業させないようなパターンです。これなら、その学校の残業時間は劇的に減少するでしょう。


しかし、先生方は今まで学校に残ってこなしていた業務を、自宅へ持ち帰ってこなすようになるというだけです



学校のタイムカードで測れる残業時間は、学校に残って業務を行った時間だけです。自宅作業まで計測することはできません。



残業時間削減方向の疑問

先程書いたように、昨今の学校教員の残業時間削減は、「学校で働く時間を短くする(自宅作業時間は気にしない)」という方向に進んでいるように感じます。

実際、私も現職時代はこんなセリフを何度も耳にしました。朝打ち合わせなどでの校長の話です。

「先生方もお疲れだと思いますので、残業もほどほどに帰りましょう」

このような言葉を聞くたび、心が凍る思いをしました。職場に残りたくて残っている先生なんて、一人もお会いしたことがありません。残業している理由は、明日の授業や分掌業務が終わっていないからです。もし帰ったならば、生徒や他の先生に迷惑がかかります。



先程の校長の言葉が意味するところは、「学校での業務時間を減らしてくれ」ということです。学校での業務時間はタイムカードで記録されるため、長ければセンターや委員会から目を付けられる可能性があるため当然とも言えます。
実際、都立高校などは業務用のパソコンを持ち帰ることができるようになりました。もちろん、パソコンを持ち帰ることで多様な働き方ができるようになるという考え方もありますが、教員は基本的に出勤しなければ仕事ができません。毎日授業があるため当然です。これがもしITの職種などで出勤の必要がないのであれば、自宅作業をメインとすることで多様な働き方の選択肢が広がりますが、教員は全く違う実態です。

このような背景から、パソコンの持ち帰り解禁というものも、一部事務を自宅で作業させることによって学校での残業時間を見かけ上で減らしていくという意図に思えてきてしまいます。(当然、あくまでも個人の意見です)


このように、昨今の教育現場の残業時間削減の流れは、いかに学校滞在時間を物理的に減らしていくかという方法に対策が絞られていると感じています。



では、残業時間削減に向けたあるべき姿とは、どのようなものでしょうか。



業務改善の重要性

学校現場に必要なのは、業務改善であると考えています。

業務を効率化することによって、場合によっては一部業務を廃止することによって、結果的に残業時間を短くしていくのです。残業時間の上限を決めることによって残業時間を減らす、というような直接策ではありません。改善の結果として、残業時間を減らすのです。


学校教員の業務は授業やホームルームなど、決して短くすることができない業務もあります。例えば50分の授業を40分に短縮しようというようなことはできません。しかし、それ以外の業務については十分に効率化の可能性があります。先生方も、成績処理やプリント作成・印刷、データ集計、アンケート処理、分掌業務など「なんとなく時間がかかる…効率が悪い…」と感じることは多いのではないでしょうか。


教員の残業時間を削減していくには、そういった業務を効率化し、生産性を向上させることが必要です。


具体的な業務改善の一例については以下の記事で紹介しているので、気になる方はぜひご覧ください。

学校における業務改善のアイデア:webアンケートのすすめ
学校における業務改善のアイデア:テキストマイニング
学校における業務改善のアイデア:「ECRSの原則とは」
学校における業務改善のアイデア:機能展開表による多能化
学校における業務改善のアイデア:「多能化の実践と事例」
学校における業務改善のアイデア:「業務調査表の活用と事例」

終わりに

以上、学校教員の残業時間調査データと、そこから見る業務改善の重要性について説明しました。業務改善については、組織的で計画的な実行が必要不可欠です。もしお悩みの方は、我々専門家である経営コンサルタントにご相談頂ければと思います。

学校の業務改善にお悩みの校長や管理職の方、こちらのホームページからのご相談お待ちしております。
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[まとめ]
・ 教員勤務実態調査より、教員の残業時間は1か月でおよそ80時間という非常に深刻な結果であることが示唆されている
・残業時間を本質的に削減するために重要なことは、残業時間上限の決定ではなく、業務改善の組織的な実行であるといえる