[サマリー]
・経営分析のフレームワークには、外部環境を分析するもの、内部環境を分析するもの、両方を分析するものがある
・フレームワークは複雑であれば良いというわけではないので、シンプルなフレームワークを使ってみることも重要である
学校は一般企業とは異なり、特殊性の高い法人です。しかしながら、経営分析の重要性は一般企業と同じく非常に重要といえます。ここで問題となるのは、どのようにして経営分析を行うべきかということです。
そんな時に便利なのが、フレームワークです。
フレームワークとはシンプルに言うと、考え方や枠組みのことです。経営分析においても、フレームワークとして有用な概念・理論が定型的にまとまっています。
今回は、このようなフレームワークについて、学校経営分析に活用できる6つのフレームワークをまとめて紹介したいと思います。
学校経営分析のフレームワーク
そもそもフレームワークとは?
フレームワークとは、物事を分解するための切り口や枠組みのことを言います。
このフレームワークは非常に便利で、ある問題や困難が発生したときにあらかじめフレームワークを知っていれば、焦らず多面的に問題・困難を分析し、解決していくことができます。そしてこれは、経営でもいえることです。
私は中小企業診断士という経営コンサルタントの資格を活用して仕事をしておりますが、毎回0の土台からコンサルティングを行っているわけではありません。新しく企業や店舗のコンサルティングを行うとき、「こういった事項をチェックする」「こういった手段でチェックする」というような流れがある程度決まっています。これも、フレームワークの1つです。
つまり、フレームワークを活用することで、効果的な経営分析を行うことができるのです。といっても、実例を確かめた方が早いと思うので、上記の説明で「?」となった方も、下の具体例を読んでいただければと思います。
では、学校経営分析のフレームワークについて、順番に6つ説明したいと思います。
3C分析
3C分析とは、「Company:自社」「Customer:顧客」「Competitor:競合」に分け、企業・組織とそれを取り巻く環境とを分析・整理するフレームワークです。
ここで、「自社」は企業・組織の内部を、「顧客」「競合」は企業の外部(利害関係者)を表しています。
学校で置き換えてみると、
Company 自社: 入学希望者数の推移について 、 教員や職員の勤務状態について(仕事量のバラツキ、残業時間など)
Customer 顧客: 生徒の属性について(志望理由、志望決定プロセスなど)、保護者の属性について(学校への関心度、行事参加度など)
Competitor 競合: 近隣他校の入学希望者人数、倍率の推移について、近隣他校の学校数について
例えばこういった項目で分類していくことができます。重要なのは項目を挙げてから更にそれぞれの項目に対して評価を行っていくことですが、フレームワークを活用することでヌケモレのない分析をすることができます。
例えばこの3C分析を知らずに学校分析をしようと思った場合、学校や生徒の内容ばかり分析してしまい、「競合」の分析が抜け落ちてしまうかもしれません。逆のパターンもあると思います。
フレームワークを活用することの利点はここにあります
(ちなみに、このようなヌケモレのない思考のことをMECEといいます。気になる方は、こちらの記事をご確認ください。→学校や塾における論理的思考:「MECEとその具体例」)
3C分析について更に詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご確認ください。→学校分析のフレームワーク①:「3C分析とは」
経営資源分析
経営資源分析とは、企業・組織が持っている経営資源の強みや弱みを分析する手法です。
経営資源分析の特徴は、内部環境(企業の内部)にフォーカスしたフレームワークであるという点です。先ほどの3C分析は企業の内部と外部を分析しましたが、経営資源分析は内部のみを分析します。
非常にシンプルですが、このような表を作って書き込んでいくと効率が良いと思います。
公立学校の場合「カネ」つまり収益性や財務的安全性については難しいところかもしれませんが、行政コスト比率や人件費コスト比率などを確認していくことになります。
経営資源分析について更に詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご確認ください。
→学校分析のフレームワーク②:「経営資源分析とは」
5フォース分析
5フォース分析(ファイブフォース分析)とは、企業や組織を取り巻く外部環境を5つの要因に分類して分析する手法です。先ほど説明した経営資源分析が内部環境の分析だったのに対し、5フォース分析は外部環境にフォーカスした分析です。
5フォース分析で着目する5つの外部環境とは、
「売り手」「買い手」「競合」「代替品の脅威」「新規参入」
この5つです。順番に説明していきます。
・売り手:物やサービスを提供してくる存在のこと。
学校でいえば、 学校設備,備品,サービス(模試,セミナーなど)提供者などが当てはまります。
・買い手:物やサービスを購入する存在のこと。
学校で言えば、生徒や保護者などが当てはまります。
・競合:競合他社のこと。
学校で言えば、近隣の学校や特色を同じくする学校(偏差値、部活、行事、校則)などが当てはまります。
・代替品の脅威:自社の物やサービスにとって代わる存在のこと。
学校業界では代替品は少ないですが、最近で言うと例えばネット形式でオンライン登校する学校などが参入してきています。こういった存在は実校舎を持つ学校からすると十分脅威になり得ますので、代替品の脅威として捉えることができます。
・新規参入:新たに参入してくる存在のこと。
学校業界の場合、新しく学校が設立される機会は多くないので、近隣に新規学校の設立見込みがある場合などに検討すればよいと思います。
このように、「外部環境」という非常に大きく漠然とした要素を項目ごとに切り分けることで、ヌケモレなく詳細な分析を行うことができます。
実際に会議等で結果を共有する際は、下図のような逗葉を使うと5フォース分析を初めて見る方にも分かりやすいと思います。
5フォース分析をさらに詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご確認ください。
→学校分析のフレームワーク③:「5フォース分析とは」
PEST分析
PEST分析とは、企業を取り巻く外部環境を「Politics:政治的要因」「Economy:経済的要因」「Social:社会的要因」「Technology:技術的要因」に分け、分析するフレームワークです。
先程説明した5フォース分析と同じように、企業・組織を取り巻く外部環境を分析する手法です。しかし、検討する項目が異なっています。
5フォース分析の場合、「買い手」「売り手」など身近な(ミクロな)項目で分析を行ったのに対し、PEST分析では「政治的要因」「経済的要因」など非常に大きな(マクロな)項目で分析を行うことに違いがあります。
そしてPEST分析では、業界ごとに注目すべき項目が異なっくることにも特徴があります。
例えば、 「Technology:技術的要因」 に特に注目すべき業界は、IT業や製造業です。IT業界の場合、非常に技術革新が早いことなどから、技術的要因の分析は重要項目となります。同じように製造業においては、特許が大きく関係してくるため技術的要因の項目が重要となることがあります。
他にも、介護福祉業界や医療関連業界の場合、 法規制の煽りや補助金制度の変化によって事業業績が大きく変化しますので、「Politics:政治的要因」が重要分析項目となります。
学校業界の場合、まず大前提として着目すべきは「 Social:社会的要因」です。少子化問題や大学進学率・就職率・文理選択率などは学校経営に直接的にかかわってくる要素であるため、 動向を確認する必要があります。
また補助金に関しても重要な要因となりますので、 「Politics:政治的要因」も同じく動向を確認する必要があるといえます。
VRIO分析について更に詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご確認ください。
→学校分析のフレームワーク④:「PEST分析とは」
VRIO分析
VRIO分析とは、「Value:経済価値」「Rarity:希少性」「Imitability:模倣困難性」「Organization:組織」に分け、企業・組織の経営資源やそれを活用する能力を分析するフレームワークです。
先程説明した「5フォース分析」「PEST分析」が外部要因の分析だったのに対し、VRIO分析は企業・組織の内部要因を分析する手法です。
模倣困難性、など聞きなれない言葉もありますので、順番に説明していきます。
経済価値「Value」:保有する経営資源が持つ価値のこと
経営資源と聞いて、先ほど説明した経営資源分析で出てきた「ヒト・モノ・カネ・情報」を思い出していただければ嬉しいです。Valueの項目を学校法人で考えると、「ヒト」指導力や事務業務効率、「モノ」校舎や設備、「情報」教育関連情報や競合情報などです。「カネ」については、公立学校であれば少し難しいですが、私立であれば財務分析の結果から考えることになります。
希少性「Rarity」:その経営資源を保有している企業は少数であるかということ
いくら経営資源に価値があっても、その経営資源をどの学校も持っていたら意味がありません。学校法人で希少性というと、珍しい行事文化や珍しい部活動などがよくある例かと思います。特に、希少な部活動を全面的に訴求している学校は多いですね。
模倣困難性「Imitability」:現在その経営資源を保有していない他の企業がその経営資源を保有するために、多大なるコストが生じるか否か
いくら経営資源に価値があって希少であっても、それがすぐに真似されてしまうのであれば意味がありませんよね。先ほど挙げた希少な部活動などは学校の伝統そのものであり、簡単に模倣できるものではなく、模倣困難性が非常に高いといえます。もちろん、伝統的でない流行に乗って設立しただけの部活などは模倣困難性が高く、もしその部活によって人気が出たとしてもすぐに競合他校の模倣(キャッチアップ)を受けることになります。
組織「Organization」:その経営資源を十分に使いこなす(活用する)だけの組織が出来上がっているかということ
いくら経営資源に価値があって希少で模倣困難性が高くても、それを活用できる人材がいなければ全く意味がありませんよね。
学校法人では特に、一部の業務が主幹教諭等に集中し、その人しかできなかったり分からなかったりする状態(これを属人化といいます)になっていることが多いといえます。公立学校の場合定期的な人事異動があるため、業務が俗人化している状態であれば異動によってその業務がストップする例も往々にして見られます。私立学校は定期的な異動はないものの、病欠や転職・退職などによる業務停止リスクを避けることはできません。
このような属人化を解消するには、組織的な改善活動が必要です。
属人化解消の取り組みについてはこちらの記事で紹介しているので、気になる方はご確認ください。
→学校における業務改善のアイデア:「多能化の実践と事例」
→学校における業務改善のアイデア:機能展開表による多能化
SWOT分析
SWOT分析とは、「Strengths:強み」「Weaknesses:弱み」「Opportunities:機会」「Threats:脅威」に分け、企業の内部環境と外部環境を分析・整理するフレームワークです。
ここまで説明したフレームワークをおさらいすると、
・外部環境の分析:PEST分析、5フォース分析
・内部環境の分析: 経営資源分析、VRIO分析
・外部環境と内部環境の分析:3C分析、SWOT分析
このような形になります。特にSWOT分析はシンプルで分かりやすいため実務でもよく使われるフレームワークです。私も、SWOT分析を使って分析結果をまとめることがよくあります。
それでは、SWOT分析の各要素を説明します。
・Strengths 強み:自社の内部環境にプラスに影響する要因のこと
例えば、人材力、研究開発力、マーケティン力、資金力などが当てはまる。
・Weaknesses 弱み:自社の内部環境にマイナスに影響する要因のこと
強みと同様に、人材力、研究開発力、マーケティン力、資金力などが当てはまる。
・Opportunities 機会:自社にとっての外部環境にプラスに影響する要因のこと
例えば、政治、経済、社会などのマクロ環境(大きな環境)や、市場、流通などのミクロ環境(小さな環境)が当てはまる。
・Threats 脅威:自社にとっての外部環境にマイナスに影響する要因のこと
機会と同様に、政治、経済、社会などのマクロ環境(大きな環境)や、市場、流通などのミクロ環境(小さな環境)が当てはまる。
それぞれこのような意味を表します。企業・組織の「内と外」を「強みと弱み」に分けてまとめるという非常に分かりやすいフレームワークなので、学校組織内部で分析を進めていく上でも使いやすいと思います。また、それを職員会議などでアウトプット・共有する場合にも、管理職以外の先生方の抵抗感が少ないです。
(逆に、VRIO分析やPEST分析などは管理職以外の先生方の抵抗感が大きいといえます。それぞれの略の説明をするだけでも一つの壁があるので、分かりやすいフレームワークを選択するというのは非常に重要です)
SWOT分析を行う際やまとめる際は、このような表を使うと見やすいかと思います。
SWOT分析について更に詳しく知りたいという方は、こちらの記事をご確認ください。
→学校分析のフレームワーク⑥:「SWOT分析とは」
→学校分析のフレームワーク⑥:「SWOT分析の活用事例」
終わりに
以上、学校経営分析の6つのフレームワークについて説明しました。もっと複雑なフレームワークなどは沢山ありますが、あまり複雑すぎるのもいかがなものかと思っております。シンプルなフレームワークでも十分に経営分析を行うことができますので、ぜひご活用いただければと思います。経営分析でご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。
学校の業務改善にお悩みの校長や管理職の方、こちらのホームページからのご相談お待ちしております。
「学校業務改善は経営コンサルタントにおまかせ下さい」
[まとめ]
・経営分析のフレームワークには、外部環境を分析するもの、内部環境を分析するもの、両方を分析するものがある
・フレームワークは複雑であれば良いというわけではないので、シンプルなフレームワークを使ってみることも重要である