[サマリー]
・業務記述書(スキルズインベントリー)とは、職務・職種によって必要とされる業務スキルを網羅的に記述した書面のことを指す
・業務記述書の活用により、初任者の人材育成だけでなく、現状学校が抱える業務課題を抽出,改善していくことができる
「人材育成」というと、まずは一般企業のイメージが思い浮かぶと思います。特に規模の大きな会社では、新入社員として入社し、ある一定期間の研修を受けた後、先輩社員と一緒に仕事をして覚えていき、一人立ちするという流れあが一般的です。もちろん大企業に限らず、研修や育成は行われています。
では、学校においてはどうでしょうか。ここでいう学校とは中学校や高校に限らず、専門学校や大学、幼稚園なども含みます。
学校においてどうやって仕事を覚えていくかというと、「やって慣れる」「見て盗む」ような職人的文化が根付いている所が多いのではないでしょうか。
今回は、学校において教員や職員の方に対して、どのような人材育成を行っていくのが効果的かということを説明していきたいと思います。
学校における教職員の人材育成方法
教職員は職人色が根強く残っている
学校の先生や職員の人材育成文化には、未だに職人的な文化の色が濃いと言えます。特に、今教職員として働いている方や、今まで働いていたことのある方はイメージがわくかと思います。
まず、新卒の先生方が初任校に赴任するときから始まります。4月1日付で採用された後、翌週の火曜日(月曜日は始業式等で授業がないことが多いです)から授業が始まります。学校の先生に、現場に立つ前の実践的な研修はありません。いきなり「やって覚えろ」というところから始まります。
また、仕事が始まってからもこのような状態が続きます。公立高校であれば定期的に学校外(研修センター等)での研修がありますが、「電話対応のマナー」「ハラスメント対策講習」などが多く、授業力に関する研修はごくわずかです。あったとしても、指導案を見せ合うような形式が多く、実際に授業をしてアドバイスをもらう機会はまずありません。
さらに、私立学校の場合は校外研修の機会が非常に少なく、自分から研究会に参加していかなければ研修の場を持つことすらできないケースが多いです(さらに外部研究会は教科研究がほとんどで、授業研究は意外と少ないです)。
もちろん、このような学校文化や研修形式を否定するわけではありません。
学校は必要最低限の教員数で運営しており、新卒教員を研修として教壇に立たせないのでは学校が立ち行かなくなってしまいます。研修についても、1人1人に授業の時間を与えていては、何日間あっても終わりません。
だから、人材育成をあきらめるのではありません。
自校での人材育成をしっかりと行っていくべきなのです。
自校で人材育成に取り組むべき理由
外部研修に頼らず、自校で教員人材育成に取り組むべき理由は簡単です。
ベテラン教員の中には高い授業スキルを保有している方がいるからです
(失礼ながら「の中には」という表現は、必ずしも全員がそうではないという意味です)
こと授業スキルについては、現場で授業を重ねてきた先生方が一番詳しくて当たり前です。教科にもよりますが、先生方は1年で500以上の授業をこなされています。10年勤めていらっしゃる方でしたら5,000回以上の授業を行ってきたことになります。その5,000回の中で工夫・改善してきたことを、若手教員に伝えればよいのです。
しかし、教員の中には授業は得意でも、事務処理が苦手な方が多くいらっしゃいます。個人的な体感としては、授業が得意な方ほどwordやexcelなどのデータ処理が苦手な傾向にあると思っています。
そこで、授業外の事務処理(成績処理、資料作成、保護者対応、電話対応など)については、毎日そういった事務に当たられている管理職の方や職員(企画室・事務室など)の方が進んでノウハウを共有していけばよいのです。
これで、若手や中堅職員も、教員力(授業など)および職員力(事務処理など)を向上することができます。
と、言葉でいうのは簡単ですが、どのようにしてノウハウを共有し、習得状況の進捗確認・改善を行っていくべきでしょうか。
そこで活躍するのが、「業務記述書」です。
業務記述書による人材育成
そもそも業務記述書とは?
業務記述書(スキルズインベントリー)とは、職務・職種によって必要とされる業務スキルを網羅的に記述した書面のことを指します。一般企業でイメージするならば、「営業職に必要な業務スキルは〇〇と〇〇と…」のような形です。
この業務記述書を活用することによって、
①教員に必要な能力はなんなのか
②誰がどのくらい能力を習得しているのか
③自校において育成を急ぐべき能力はなんなのか
などを分析することができるのです。
では、学校における業務記述書の作成例を示したいと思います。
業務記述書についてもっと詳しく知りたいという方は、こちらの記事もご確認いただければと思います。
→業務記述書とは?サンプルから書き方を考える
学校における業務記述書の作成例
一例として、学校における業務記述書はこのような形になります。説明のため項目を絞っているため、実務ではさらに細かいものとなることが多いです。
少し縦長でみづらいですが、このような形です。「業務カテゴリー」で挙げた業務について、「業務内容」を記述し、その重要度と習得の困難度を考えます。
そして実際に学校で活用する際は、「授業」項目であれば授業力が高い方と一緒にこの業務記述書を作成することが重要です。
もちろん、管理職の方も長い授業経験の中で、御自分の授業に対する考えをお持ちだと思います。しかし、現役で毎日教壇に立たれている方と比べると、授業において意識する項目・重要な項目のヌケモレが生じてしまう恐れがあります。
したがって、ある項目に必要とされる業務を書き出す際は、必ずその業務に精通している方と書き出してください。したがって、「電話対応」や「資料作成」の業務記述書を作る際であれば、管理職や職員の方が中心となって作ることになるかと思います。
では、この業務記述書を使うメリットをまとめていきます。
業務記述書を使うメリット
メリット①:人材育成に活用できる
学校における業務記述書作成の最大のメリットは、教員の人材育成への活用です
新卒で赴任されてきた教員や、転職で教員になった先生方は、はじめ何をなればよいのか、何が重要なのかということが分からず大きな不安を抱えています。その状態で「見て覚えろ」「やって慣れろ」というのは負担が大きいです。
そこで、業務記述書の出番です。例えば、「授業ってどんなことを意識してやればいいんだろう」と思った時に業務記述書を見ることができれば、なにを意識するべきか、そして何が重要なのか(重要度の数値より)理解することができます。さらに、習得にかかる時間の目安も「困難度」として示されているので、「自分は授業が下手で全然上手くならない」というような、必要以上のネガティブも排除することができるのです。
メリット②:個人の能力保有状況が分かる
業務記述書が完成したら、それを先生方全員に配り、自分の能力状態を5段階評価などでチェックしてもらってみてください。すると、当然ながら誰がどの程度能力を保有しているかを把握することができます。
学校において定期的な人事考課で重点的に評価されるのは「授業力」であり、その他の能力は評価されることが少ないです(「分掌への貢献度」「校外活動実績」など、能力ではなく情意などが評価されます)。
したがって、資料作成や電話対応・保護者対応といった授業力以外のスキル習得状況を知ることができるというのは非常に大きなメリットといえます。
もちろん、能力を自己評価してもらう際は、昇給に関わる定期の人事考課とは全く関係がないということを伝える必要があります。伝えなかった場合、実態に比べて高い自己評価がつく恐れがあります。
メリット③:能力状況に応じた人材育成計画が立てられる
これは、メリット②の派生です。メリット②のところで、能力保有状態の把握を説明しました。
当然、把握するだけでは終わらせません
「重要度」を参考にしつつ業務記述書の自己評価を分析すれば、学校にとって重要な能力であるにも関わらず習得している人材が少ないスキルが見えてくるはずです。
その能力こそ、優先して育成すべき業務なのです
例えば「調査書作成」は重要な業務なのにも関わらず、担当できる教員が非常に少ないケースが多いです。他にも、「アンケート分析」業務などは、できるという教員は多いものの教員間の業務品質のバラツキが大きく、標準化されていないケースがほとんどです。
このように、業務記述書を活用することによって、初任者の人材育成だけでなく、学校が抱える問題を表出化し育成によって解決に向かっていくことができるのです。
終わりに
以上、学校における教員人材育成の例として、業務記述書の活用を説明しました。当ブログでは他にも、問題解決の手法をいくつかの記事で紹介しているので、ご興味のある方はご覧いただければと思います。
→学校における業務改善のアイデア:機能展開表による多能化
→世界一勤務時間が長い学校教員の業務改善の重要性
また、実務として業務改善を進めていくためには専門家の協力も重要となります。お悩みの際は、ぜひご相談ください。
学校の業務改善にお悩みの校長や管理職の方、こちらのホームページからのご相談お待ちしております。
「学校業務改善は経営コンサルタントにおまかせ下さい」
[まとめ]
・業務記述書(スキルズインベントリー)とは、職務・職種によって必要とされる業務スキルを網羅的に記述した書面のことを指す
・業務記述書の活用により、初任者の人材育成だけでなく、現状学校が抱える業務課題を抽出,改善していくことができる