[サマリー]
・積立率とは、積立率とは、学校の経営を安定的に継続するために必要となる運用資産をどの程度持っているのかを表す指標である
・基本的には高いほど経営安定状態を示しているといえるが、事業再編・縮小など経営方針によって数値が変化することに注意が必要である




学校法人の財政分析の指標の1つに「積立率」というものがあります。学校法人の財政分析は他の一般企業の財務分析と比べ指標が特殊なため、少しわかりづらいと感じている方も多いかもしれません。

今回はこの積立率について、意味や計算式を説明していきます。

学校法人の積立率

積立率とは?

積立率とは、学校の経営を安定的に継続するために必要となる運用資産を、どの程度持っているのかを表す指標です。

「運用資産の保有状態」を示す指標のため、基本的には数値が高いほど財政的に良好な状態ということになります。

ここで、運用資産の保有状態がなぜ「積立率」という名前で呼ばれているのかについてですが、これは計算式を見るとお分かりいただけるかと思います。

積立率の計算式

積立率は、以下の計算式で求めることができます。

積立率の計算式


積立率=運用資産÷要積立額


このような式で積立率を求めることができます。しかし、「運用資産」「要積立額」など、またも聞きなれない言葉が出てきています。この2つについては、それぞれ以下の計算式で求めます。

運用資産の計算式
要積立額の計算式


運用資産=特定資産+有価証券+現金預金
要積立額=退職給与引当金+2号基本金+3号基本金+減価償却累計額


以上の計算式で、運用資産と要積立額を求めることができます。
まとめると、積立率の計算式は以下のようになります。

学校法人の積立額の計算


積立率=(特定資産+有価証券+現金預金)÷(退職給与引当金+2号基本金+3号基本金+減価償却累計額)


……長いですね。学校法人の財政分析指標は非常にシンプルなものが多い中、積立率の計算は複雑な部類になります。ちなみに、「特定資産」「基本金」など、積立率を求める上での指標は全て学校法人の財務諸表の貸借対照表から確認することができます。

計算式を見ただけでは実際に計算できるか不安な部分もあるかと思いますので、実際の財務諸表を使って計算してみたいと思います。その前に、積立率の計算で登場した「基本金」について、どんなものだったっけ、と思った方は以下の記事を参考にして頂ければ幸いです。
学校法人の基本金とは?


積立率の計算の確認

以下のデータは、東京家政大学の平成29年度財務諸表です。積立率の計算には貸借対照表のみを使いますので、ピックアップして解説します。(貸借対照表とは何か、についてはこちらの記事を確認してください

学校法人の積立率の計算

スマートフォンからの方は見にくいかもしれませんが、赤枠で囲った部分が積立率計算の分子に当たる部分です。


次に、貸借対照表の負債、純資産の部を確認します。

学校法人の積立率計算

赤枠で囲った部分が、積立率計算の分母に当たる部分です。最後に、減価償却累計額については貸借対照表の注記に記載されている数値を読み取ります。

注記の読み取り


これで全ての数字が出そろいました。では、平成29年度東京家政大学の積立率を例として計算してみます。

積立率=(特定資産+有価証券+現金預金)÷(退職給与引当金+2号基本金+3号基本金+減価償却累計額)


ですので、

積立率=(10,222,624,139+4,837,033,000+7,625,560,881)÷(2,080,583,639+2,900,000,000+141,670,000+25,380,399,067)≒74%

ということで、積立率は74%と計算することができました。では、この積立率74%という値は大きいのでしょうか、小さいのでしょうか。

積立率の目安

大学(短期大学を除く)の場合、積立率の全国平均値は72.4%とされています日本私立学校振興・共済事業団より)。したがって、今回の計算例でいう積立率74%というのは、おおむね全国平均レベルであるということが分かります。

ここで、記事冒頭に「積立率は基本的に高い方がよい」という説明をしました。間違ってはいないのですが、平均値より小さい値が出たからといて、即経営状態悪化を示すわけではありません。学部再編や事業規模縮小など、学校の経営方針によって積立率が低く算定されることもありますので、積立率は経営・事業の現状と合わせて考えていくことが重要といえます。

以上、学校法人の積立率について意味や計算式、実際の貸借対照表を使った計算方法を解説しました。ぜひ、今後の学校経営に役立てて頂ければと思います。


学校経営にお悩みの校長や管理職の方、こちらのページからのご相談お待ちしております。



事務所代表プロフィール

名前:木村 成(きむら じょう)

保有資格:
・中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格者)
・税理士 ・行政書士(行政手続、法律書類作成の国家資格者)
・日商簿記1級
・認定経営コンサルタント
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)
・中学、高等学校一種教員免許(元高校教員)


[まとめ]
・積立率とは、積立率とは、学校の経営を安定的に継続するために必要となる運用資産をどの程度持っているのかを表す指標である
・基本的には高いほど経営安定状態を示しているといえるが、事業再編・縮小など経営方針によって数値が変化することに注意が必要である