[サマリー]
・職能資格制度は「人基準」、職務等級制度と役割等級制度は「仕事基準」の等級制度である
・それぞれの制度に、年功的運用面や人件費面、人事異動面のメリットやデメリットがあるため、自社にとってどの制度が合うかをしっかりと考えることが重要である
今回は、等級制度の代表例である「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」について、違いを比較しながら考えたいと思います。
職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度の違いとは
それぞれの制度の概要
その①:職能資格制度
まず、違いを比較していく前に、ざっとそれぞれの制度について説明します。
職能資格制度とは、職務遂行能力をレベル化し、等級化する制度のことです。
そもそも「職能」とは、職務遂行能力のことです。職務遂行能力によって等級が決まるから「職能」資格制度という名前だと思ってください。
職能資格制度に関する詳しい説明は、こちらの記事を参照ください。
→職能資格制度とは?特徴とメリット・デメリット
その②:職務等級制度
職務等級制度とは、担当する職務内容によって等級を決定する制度です。職務の価値が大きいほど、等級も大きく(高く)なります。つまり、人の価値とは関係なく仕事の価値で決まるということがポイントです。
職務等級制度に関する詳しい説明は、こちらの記事を参照ください。
→職務等級制度とは?職能資格制度との違いとメリット・デメリットを考える
その③:役割等級制度
役割等級制度とは、職務の内容を決める要素を総合的に定義して等級を決める制度です。この「総合的に定義」という部分ですが、等級を大きくくくっているようなイメージを持っていただければと思います。
職務等級制度に似ているなという印象かと思いますが、職務等級制度に比べて等級を大きくくくっているという部分が特徴的な違いとなります。
役割等級制度に関する詳しい説明は、こちらの記事を参照ください。
→役割等級制度とは?メリットとデメリットを考える
それでは、職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度について、違いを比較していきたいと思います。
「何を基準にするか」の違い
まず、何を基準として等級が決まるかという違いです。結論から言うと、
・職能資格制度は「人基準」
・職務等級制度 , 役割等級制度は「仕事基準」
で等級が決定するという違いがあります。
職能資格制度は「職能」つまり職務遂行能力というその人が持つ能力によって等級が決定します。つまり、なんの仕事をしているかは関係なく、不変である個人の能力によって等級が決定するのです。
逆に、職務等級制度や役割等級制度は「職務」や「役割」という仕事の価値によって等級が決定します。
このように、まず等級決定の基準に大きな違いがあるといえます。
「メリット」の違い
では、職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度のメリットを比較してみましょう。ここでは代表的なメリットのみを考えます。
順番に説明します。
(1)職能資格制度は、仕事基準の等級制度と違って仕事や役職が変わらなくても能力の向上によって等級を上昇させることができます。仕事や役職が固定化されているような時でも賃金が上がるので、従業員のモチベーションの面でも効果がある制度です。
さらに、能力の向上によって等級があがる仕組みであるため、会社としての能力開発という方向性と整合します。従業員も必然的に能力向上に励む姿勢となり、会社にとって良い効果があるといえます。
(2)職務等級制度は、仕事によって基本給が決定されるため、高い等級の従業員が過剰に増えてしまうという事態にはならず、人件費の抑制が期待されます。レベルの高い仕事は通常部長や課長といった管理職がこなすため、役職ポストの数が決まっていれば人件費もそれに合わせて決定されるということです。
また、実際にこなしている仕事によって基本給が決定されるため、年功的運用(社歴が長いと等級も高くなる運用)にもなりづらいです。社歴がいくら長くても業績が悪い従業員は難しい仕事をこなすような役職にもつかないため、等級が上がらないという仕組みです。
(3)役割等級制度のメリットは職務等級制度と似ていますが、比較すると人事異動が柔軟です。職務等級制度に比べて等級を多くくりに作っているため、部署異動のような際にも同じ等級のポストに就けやすく、基本給ダウン(=役割ダウン)のおそれが少ないからです。
年功的運用になりづらいというのは、職務等級制度と同様です。
では、デメリットについて比較してみましょう。
「デメリット」の違い
では、職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度のデメリットを比較してみましょう。ここでは代表的なデメリットのみを考えます。
それでは、順番に説明していきます。
(1)職能資格制度は年功的運用になりやすい制度です。これは「人基準」の人事制度の宿命ともいえます。一般的にその人が有する能力は目に見えないため評価が難しく、「会社に長くいるから能力も高いだろう」という運用がされがちです。
また、従業員の能力が上がったからと言って必ずしも会社業績が良くなるとも限らず、人件費が増加しがちです。これは、業績が良い時はまだしも、業績が低迷してきたときに固定費として人件費負担が重くのしかかってきます。
(2)職務等級制度は仕事によって等級がきまる「仕事基準」の等級制度であるため、役職が変わらなければ等級が変わることもありません。職能資格制度と違い、がんばって自分の能力を上げたとしても給料に反映されない可能性もあるということで、従業員のモチベーションが下がる可能性がありますね。
また、上位のポストの数が限られているため、部署異動の際も柔軟な移動が難しいです(例えば営業部長が総務部に異動するとなったとき、賃金を下げないために部長職に就かせないといけないといったケース)。
(3)役割等級制度は基本的には職務等級制度と似たようなデメリットがあります(どちらも仕事基準だからです)。しかし、役割等級制度は職務等級制度に比べて等級を多くくりに区切っているため、職務等級制度より人事異動が柔軟であると言えます。
最後に
ここまで、3つの等級制度について比較してきましたが、それぞれの制度に特徴やメリット、デメリットがあったかと思います。そのため、当然ながらこの制度が絶対によい、採用すべきだといった等級制度はありません。
ここまで説明してきたようなメリットやデメリットを勘案して、自社にとってどれが最も適切なのだろうかということを考えて頂ければともいます。
[まとめ]
・職能資格制度は「人基準」、職務等級制度と役割等級制度は「仕事基準」の等級制度である
・それぞれの制度に、年功的運用面や人件費面、人事異動面のメリットやデメリットがあるため、自社にとってどの制度が合うかをしっかりと考えることが重要である
人事制度にお悩みの経営者や管理職の方、こちらのホームページからのご相談お待ちしております。
「木村税理士・行政書士事務所」