[サマリー]
・職能資格制度とは、職務遂行能力をレベル化し、等級で区切る制度である
・賃金決定の柔軟性や能力開発の面でメリットが大きいものの、年功的運用になりやすいなどのデメリットもある
以前、人事制度の中でも重要な位置づけである等級性の代表例として、職能資格制度について紹介しました(「等級制度」については、こちらの記事を確認ください)。
今回は、この職能資格制度について、その特徴やメリット・デメリットを考えていきます。
職能資格制度の特徴とメリットデメリット
職能資格制度とは?
そもそも「職能」とは、職務遂行能力のことです。この職務遂行能力をレベル化し、等級で区切ったものが職能資格制度です。以前紹介したように、職能資格制度は「人基準」の等級制度であるため、あくまでも担当者の職能(職務遂行能力)で決まることが特徴です。つまり、
受け持っている仕事や役職など必ず一致するわけではない
ということに注意が必要です。ちなみに、仕事や役職によって等級が決まる制度は「仕事基準」の等級制度の特徴でしたね。
(仕事基準や人基準という言葉についてはこちらの記事をご確認ください)
職能資格制度の体系
職能資格制度は職務遂行能力によって等級が決まるという制度でした。では、どのような体系になるでしょうか。
まず、等級制度ということで、1等級から大きい会社では9等級程度まで等級が設計されます。そして、その等級ごとに「資格」が設定されます。この資格が、職能資格制度の特徴となります。
例えば、
・1等級の従業員は「初級職」の資格
・4等級の従業員は「主事」の資格
といった具合です。ここで勘違いされやすいのが、「部長」「課長」などの職位です。これはあくまでも職務上の地位を表すものであり、資格ではありません。
職能資格制度で決定されるのはあくまでも「資格」です。先ほどの例でいえば、「初級職」や「主事」という資格によって等級が決定されます。
つまり、資格と等級は1対1で対応しているということです。逆に、部長や課長といった職位は等級と1対1で対応している必要はなく、部長とは7等級の従業員と8等級の従業員のうちの一部である、といった対応が可能です。
しかしながら日本では資格による呼称が一般的でないため、職位で呼ぶことが多いと言えます。「〇〇主事」と呼ぶより、「〇〇係長」と呼ぶ方がしっくりきますね。
このように、職能資格制度は資格と等級を対応させた制度です。では、職能資格制度のメリットとデメリットを説明します。
職能資格制度のメリット・デメリット
メリット①:賃金制度が柔軟に運用できる
例えば、仕事基準の等級制度と比較して考えてみます。仕事基準の等級制度は職務によって等級が決定するため、職務が変わらなければ賃金が変わることもありません。つまり、賃金の設定が固定的で融通が利かないのです。
逆に職能資格制度の場合は、仕事に関係なく、従業員の能力が向上すれば賃金を上げることができ、柔軟に賃金設定を行うことができます。また、高齢化により部長や課長といった上位の職位が埋まってしまっていても、関係なく賃金を上げることができるのです。
メリット②:能力開発と整合している
何度も何度も恐縮ですが、職能資格制度とは職務遂行能力で等級を決定するという制度です。したがってこの制度の背景には、人材を育てていく、能力を開発していくという考え方があります。これが日本的な職務に対する意識と整合するため従業員にも受け入れられやすく、従業員のモチベーション向上にも影響してくれるのです。
さらに、先ほど説明したように部長や課長といった職位とは関係なく等級が決定されるため、そういった役職に就いていない従業員にとっても、能力を高めていこう、もっと上の等級を目指そうというモチベーションにつながるといえます。
デメリット①:年功的な運用になりやすい
職能等級制度は目に見えない「その人が持つ能力」によって等級を決めるため、必然的に年功的(社歴が長い人ほど等級が高くなる)運用になりやすいのです。どういうことかというと、
能力が測りにくい→5年目の社員より10年目の社員の方が能力はきっと高いはず→5年目の社員の等級を高くしよう
という発想です。これを防止するためには、等級を規定するマニュアル(職能基準書)を詳細に整備する必要がありますが、なかなか上手く回らないというのが現状です。
デメリット②:人件費が増加しやすい
これは、不況期において顕著に現れます。先ほど説明したように、職能資格制度というのは能力によって等級が決定されるため、会社の業績は等級には一切考慮されていません。したがって、
業績が良い時も悪い時も、同じように人件費が発生してしまう
とうことです。能力が高いと評価された人が多ければ等級も高くなり人件費も大きくなりますが、能力が高いからと言って必ずしも業績も良いとは限りませんね。
これを解消する考え方が、業績等級制度です。
以上、職能資格制度について、その特徴をメリット・デメリットを挙げながら説明しました。会社を設立したり、会社を方向転換したりする際に等級制度の設計は本当に重要な要素となりますので、しっかりと考えて頂ければと思います。
[まとめ]
・職能資格制度とは、職務遂行能力をレベル化し、等級で区切る制度である
・賃金決定の柔軟性や能力開発の面でメリットが大きいものの、年功的運用になりやすいなどのデメリットもある
人事制度にお悩みの経営者や管理職の方、こちらのホームページからのご相談お待ちしております。
「木村税理士・行政書士事務所」