[サマリー]
・学校法人会計基準とは、学校法人が従うべき会計処理の基準である
・企業会計原則など一般的な会社に適用される会計基準と比べ、成り立ちや利益の考え方が大きく異なる

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学校法人特有の会計基準に「学校法人会計基準」があります。一般企業の会計基準と異なり、作成する財務諸表や基となる考え方も違ったものになっています。そのため、市販されている簿記の教科書などだけでは学校法人会計基準を十分に理解することは難しく、取っつきにくいというイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

今回はこの学校法人会計基準について、どのようなものなのかを説明していきたいと思います。

学校法人会計基準の解説

そもそも会計基準とは?

会計基準とは、財務諸表を作成するためのルールのことを指します。なぜ財務諸表を作成するのかというと、会社にとっての利害関係者(株主や債権者など)に対して、会社の状態を正しく伝えるためにあります。

もし、会社がそれぞれ自社独自の会計基準によって財務諸表を作成してしまうと、投資家はどの会社に投資していいかわからず、債権者は会社が安全な状態なのか判断できなくなってしまいます。

このようなことを防ぐため、統一されたルール、つまり会計基準が必要なのです


日本で代表的な会計基準には、「企業会計原則」や「原価計算基準」などがあります。


学校法人会計基準とは

学校法人会計基準とは、私立学校に適用される会計のルールのことです。
公立学校には国立大学法人会計基準や独立行政法人会計基準など、学校法人会計基準とは異なる会計基準が適用されます。

学校法人会計基準に沿って作成が必要な財務諸表には、「貸借対照表」「事業活動収支計算書」「資金収支計算書」などがあります。一般的な企業の会計基準で開示が要求される財務諸表でいうところの、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」とそれぞれが類似しています。

しかし、学校法人会計基準と一般的な会社が従う会計基準(企業会計原則など)には、様々な違いがあります。そしてここが、学校法人会計基準が分かりにくいといわれる所以でもあります。


ここからは、2つの会計基準の違いについて説明してきます。

学校法人会計基準と一般的な会計基準の違い

成り立ちの違い

株式会社に適用される一般的な会計基準は先ほど説明したように、企業の利害関係者(株主や債権者など)のために必要不可欠なものです。統一されたルールに従って利益などを算出することで、必要な税金の徴収や配当金の支払いが行われます。

一方、学校法人における会計基準の必要性とはなんでしょうか。配当や納税がない学校法人においては、上記理由は通用しません。(配当については、そもそも学校法人は株式会社ではないので存在しません。また、納税についてですが学校法人に納税義務はありません。収益事業を行っているようなケースは別ですが、基本的に納税義務がないのです)


ここで、学校法人会計基準の決定に大きく関わってくるのが、助成金です。
1969年に私立学校に対する国の助成金計上が決定しますが、助成金を配分するためには学校の財務状況を知る必要があります。つまり、学校間で統一された会計基準が必要なのです。

学校法人会計基準がその翌年1970年にまとめ上げられたことからしても、学校法人会計基準の決定には助成金が大きく関わっているのです。
ちなみに、一般的な企業が従うべきとされる企業会計原則は1949年に公表されていますので、学校法人会計基準がかなり遅れて作られたということがお分かりいただけるかと思います。


利益(赤字・黒字)の違い

一般企業における財務諸表(損益計算書)では、利益の算出方法として、

収益-費用=利益

という等式が知られています。赤字か黒字かというのはこの利益のプラスマイナスを判断して決めることになります。


一方、学校法人会計基準では黒字・赤字の判断が難しいのです。学校法人会計基準における利益(事業活動収支計算書において利益の位置付けにあたるもの)は、

収入-支出-基本金組入額=当年度収支差額


という等式で表されます。では、この当年度収支差額を見て黒字・赤字を判断すればいいのかというと、そうではありません。事業活動収支計算書の最後の方に当年度収支差額が記載されているためこの部分が利益だと思ってしまいますが、式の通りこれは利益から基本金組入額を引いた後の値です。

基本金とは、学校法人が将来の投資などのために予め繰り入れる額のことです。詳しくはこちらの記事をご確認ください。→学校法人の基本金とは?

つまり、先ほど説明した学校法人会計基準の事業活動収支計算書の式である、

収入-支出-基本金組入額=当年度収支差額
 の式のうち、収入-支出の部分に注目する必要があります。

この収入-支出は、基本金組入前当年度収支差額として事業活動収支計算書に記載されています



学校法人会計基準が改正される前は、この基本金組入前当年度収支差額が計算書に明示されていなかったため、非常に見にくいものでした。現在の事業活動収支計算書にはこの額が明示されていますが、基本金組入額を引いた後の値(当年度収支差額)と区別することが重要です。

以上、学校法人会計基準について、基本的な考え方や成り立ち、利益についての考え方などを説明しました。学校法人の会計は一般的な企業とは大きく異なるため、慣れが必要といえます。

学校経営にお悩みの校長や管理職の方、こちらのページからのご相談お待ちしております。



事務所代表プロフィール

名前:木村 成(きむら じょう)

保有資格:
・中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格者)
・税理士 ・行政書士(行政手続、法律書類作成の国家資格者)
・日商簿記1級
・認定経営コンサルタント
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)
・中学、高等学校一種教員免許(元高校教員)

業務内容:
首都圏を中心に、学校や教育関連企業等の中小企業支援を業務として行っている。経営コンサルタントとしては、教育現場の業務改善や販路開拓のコンサルティングなどを中心に活動。行政書士としては、会社設立の代理や営業許認可取得の代理を中心に活動している。中小企業診断士・行政書士の2つの資格を活用して、経営面と法務面の2つの視点から、組織・事業の業務改善と拡大支援に励む。



[まとめ]
・学校法人会計基準とは、学校法人が従うべき会計処理の基準である
・企業会計原則など一般的な会社に適用される会計基準と比べ、成り立ちや利益の考え方が大きく異なる