[サマリー]
・生徒一人当たり経費支出とは、生徒一人当たりにかかるコストを表す指標である
・全国水準より高い低いというだけで良し悪しを判断するのは早計であるといえる



学校における財務分析の指標の1つに「生徒一人当たり経費支出」というものがあります。言葉から連想しておおまかな意味は分かりますが、「経費支出って具体的になんだ…?」というような疑問もあるかと思います。

今回はこの生徒一人当たり経費支出について、意味や計算方法を説明していきます。

生徒一人当たり経費支出の解説

生徒一人当たり経費支出とは?

生徒一人当たり経費支出とは、生徒一人当たりにかかるコストを表す指標です。高ければ財務的に学校を圧迫している可能性が高く、低ければ圧迫している可能性が低いことを示唆しています。では、学校にとっては低ければよいのかというと、必ずしもそのようなわけではありません。生徒一人当たりコストが低いということは、生徒1人1人へのサービスや教育の質が低いということにもなり得るからです。

生徒一人当たり経費支出については、適正な水準を維持していくことが求められます。


生徒一人当たり経費支出の計算式

生徒一人当たり経費支出は、以下のような計算式で求めることができます。

生徒一人当たり支出の計算式


生徒一人当たり経費支出=(教育研究経費支出+管理経費支出)÷在籍者数


このような計算式で求めることができます。在籍者数については説明することはありませんが、問題はカッコの中の部分です。「教育研究経費支出」「管理経費支出」という項目が、財務諸表からしっかりと拾えることができれば、生徒一人当たり経費支出を求めることができます。


それでは、実際の財務諸表を使って生徒一人当たり経費支出の求め方を確認してみましょう。



実際の財務諸表で計算してみる

以下のデータは、専修大学付属高等学校のホームページ上で公開されている平成30年度の財務諸表です。今回は、事業活動収支計算書について注目してみます。

学校法人の貸借対照表

一部を抜粋して表示しています。画像の部分は教育活動支出が並んでいるところですが、この中でも「教育研究経費」「管理経費」に注目します。それぞれの項目の下に詳細な項目が並んでいますが、総額が知りたいので気にしないで問題ありません。

まず、この貸借対照表より、教育研究経費は300,059,127円、管理経費は53,189,592円であることが分かります。



次に、在籍者数についてです。在籍者数は財務諸表からは判断できないので、外部データを参考にします。ここでは、学校情報掲載サイト「日本の学校」を参考に、データを抽出しました。およそ、高校3学年合わせて1,280人です。ただし、このデータは2019年5月のデータなので、先ほどの経費データとは1年ほどずれていますので注意が必要です。今回はあくまで概算ということなので、1年のずれには目をつぶって計算します。


では、実際に生徒一人当たり経費支出を計算しましょう。

生徒一人当たり経費支出=(教育研究経費支出+管理経費支出)÷在籍者数
でしたので、

生徒一人当たり経費支出=( 300,059,127+53,189,592)÷ 1,280≒276,000円


という結果になりました。では、この値について考察します。
生徒一人当たり経費支出の高等学校における全国平均は、およそ249,000円といわれています(日本私立学校振興・共済事業団データより)。したがって、この学校の生徒一人当たり経費支出は全国平均に比べて27,000円ほど高いということが窺えます(あくまでも概算です)。


この結果は、学校側としては財務的な負担が大きいということを意味しており、他の指標も状態が悪いようであれば改善が必要かもしれません。しかし、生徒にとってみれば手厚い教育サービスを受けられているという可能性を示唆しており、単純な良し悪しだけでは判断することができないといえます。


我々コンサルタントが実務において財務分析をする際は、1つの指標分析だけでなく、各種指標の分析や経営戦略などを勘案し、適正水準を判断していきます。したがって、生徒一人当たり経費支出はあくまでも学校財務分析の1つの指標として活用して頂ければと思います。

以上、生徒一人当たり経費支出について、意味や計算式を確認した上で、実際に計算しながら解説しました。ぜひ、学校の経営状態の把握に役立てて頂ければと思います。

学校経営・財務にお悩みの校長や管理職の方、こちらのページからのご相談お待ちしております。


事務所代表プロフィール

名前:木村 成(きむら じょう)

保有資格:
・中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格者)
・税理士 ・行政書士(行政手続、法律書類作成の国家資格者)
・日商簿記1級
・認定経営コンサルタント
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)
・中学、高等学校一種教員免許(元高校教員)

業務内容:
首都圏を中心に、学校や教育関連企業等の中小企業支援を業務として行っている。経営コンサルタントとしては、教育現場の業務改善や販路開拓のコンサルティングなどを中心に活動。行政書士としては、会社設立の代理や営業許認可取得の代理を中心に活動している。中小企業診断士・行政書士の2つの資格を活用して、経営面と法務面の2つの視点から、組織・事業の業務改善と拡大支援に励む。


[まとめ]
・生徒一人当たり経費支出とは、生徒一人当たりにかかるコストを表す指標である
・全国水準より高い低いというだけで良し悪しを判断するのは早計であるといえる