[サマリー]
・志願倍率は志願者数÷募集定員で求めることができ、学校側としては一般的に高い方がよいとされる
・合格率(実質倍率)は合格者数÷受験者数で求めることができ、学校側としては一般的に低い方がよいとされる
学校財務分析の1つの指標に、「志願倍率」というものがあります。この〇〇倍率という指標には似たようなものが多くあり、実質倍率もその1つです。これらの指標は誤解されて使われていることもあります。
今回は、この志願倍率について意味や計算方法、また実質倍率との違いなどについて説明してきます。
志願倍率とは?学校財務分析を考える
志願倍率とは?
志願倍率とは、入学定員に対しどれくらいの志願者がいたのかを表す指標です。
もちろん学校側としては、志願倍率は高い方がよい状態であるといえます。なぜなら、志願倍率は入学検定料収入に大きく関わってくるからです。
ここで入学検定料収入とは、入試に伴って学校に入ってくる収入のことを指します。
実際に、財務諸表で確認してみましょう。以下は、立正大学のホームページ上で公開されている平成30年度の事業活動収支計算書です。
事業活動収支計算書とは、学校法人の経営活動における収入と支出を表す財務諸表です(一般企業でいうところの損益計算書PLに似ています)。中央の手数料収入の項目の内訳として、入学検定料収入がありますね。これが、入学試験に伴って発生した収入を表しています。この例で言えば、およそ3億6千万の収入があったことが分かります。
このように、志願倍率は入学検定料収入に関わってくるため、学校側として非常に重要な指標といえるのです。
では次に、志願倍率の計算式を見てみましょう。
志願倍率の計算式
志願倍率は、以下の式で計算することができます。
志願倍率=志願者数÷入学定員
このような計算式で志願倍率を求めることができます。
そしてここで重要なのが、計算式の分母は「志願者数」であって「受験者数」ではないことです。
これは、受験する側にとっては意味のないことですが、学校側としては大きな違いです。なぜなら、受験してもしなくても、入学検定料収入は発生するからです。受験を決め(=志願)検定料を振り込んでさえいれば、当日会場に本人が来ても来なくても、入学検定料収入は入ってきているのです。そして当然ながら、志願倍率は学校側として高い方がよいということになります。
学校側として志願倍率を分析する際は、こういった細かい部分の違いに注意することも大切といえます。
次に、類似の指標である合格率について説明します。
合格率とは?
合格率とは、受験生の内どの程度の割合を合格させたかを表す指標です。
計算式を確認してみましょう。
合格率=合格者数÷受験者数
このような計算式で合格率を求めることができます。この指標は高い方がいいか低い方がいいか、絶対的な基準を定めるのは難しいです。しかし学校側としては、合格率が高いということは適正な競争が行われていない(≒人気がない)ということになりますので、一般的には低い方がよいといわれています。
また、この合格率は「実質倍率」という言葉で呼ばれることもあります。実質倍率は、合格率の分母が「志願者数」ではなく「受験者数」であるということを強調する際の言い方になりますが、同じ意味です。
それでは最後に、志願倍率と合格率について、実際の学校法人を例として計算してみたいと思います。
志願倍率と合格率の実際計算
以下の資料は、立正大学付属立正中学校・高等学校のホームページ上で公開されている2019年度入試データです。
入試が複数回に分かれていますが、ここでは左列の全体合計について計算してみたいと思います。
志願倍率
志願倍率の計算式は「志願者数÷入学定員」ですので、
773÷200≒3.9倍 となります。
ちなみに、受験回が後半になるにつれ、志願倍率が上がっていっていることが分かります。
合格率
合格率の計算式は「合格者数÷受験者数」ですので、
214÷271≒80% となります。
ちなみに、合格率は受験回が後半になってもあまり変化していないことが分かります。志願倍率が上昇しているのに合格率の変化が小さいということは、願書を出したのに受験しなかった人が多いということを表しているのです。
以上、志願倍率と合格率について、意味や計算式を実際の財務資料を参考にしながら説明しました。受験する側としてだけでなく、学校法人側としても財政分析を行っていく上で各種倍率は重要な指標となります。学校の財務状態や財政状態を正しく把握・分析するためにも、学校特有の財務指標に馴染んで頂ければと思います。
学校経営にお悩みの校長や管理職の方、こちらのページからのご相談お待ちしております。
事務所代表プロフィール
名前:木村 成(きむら じょう)
保有資格:
・中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格者)
・税理士
・行政書士(行政手続、法律書類作成の国家資格者)
・日商簿記1級
・認定経営コンサルタント
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)
・中学、高等学校一種教員免許(元高校教員)
業務内容:
東京都銀座にて、学校や教育関連企業等の中小企業支援を業務として行っている。経営コンサルタントとしては、教育現場の業務改善や販路開拓のコンサルティングなどを中心に活動。行政書士としては、会社設立の代理や営業許認可取得の代理を中心に活動している。中小企業診断士・行政書士の2つの資格を活用して、経営面と法務面の2つの視点から、組織・事業の業務改善と拡大支援に励む。
[まとめ]
・志願倍率は志願者数÷募集定員で求めることができ、学校側としては一般的に高い方がよいとされる
・合格率(実質倍率)は合格者数÷受験者数で求めることができ、学校側としては一般的に低い方がよいとされる