[サマリー]
・スライド式とは、毎年の業績評価の積み重ねによって基本給が上下する方式のことである
・比較的設計が難しい分、等級の長期滞留化や基本給の甘辛付けがしっかりとできるという点でメリットがあるといえる
今回は、基本給決定の仕組みとして、スライド式というものを紹介していきたいと思います。
スライド式による基本給の決定
そもそも基本給とは?
基本給とは、月例賃金の中でも一定の基準によって決定された、賃金の基本となる部分のことを指します。職能資格制度で言えば職能給、役割等級制度で言えば役割給などが当てはまります。他の賃金(諸手当など)に比べて基本的な部分を占めるから基本給、といったイメージを持っていただくとよいかと思います。
賃金の中に占める基本給の位置付けはこのような形です。
上図の賃金の体系については「賃金制度の設計:賃金体系を考える」の記事で詳しく説明しているので、詳しくはそちらをご確認いただければと思います。
それでは、基本給のタイプの1つである「スライド式」について説明していきます。
基本給の決定:スライド式とは?
スライド式とは、毎年の業績評価の積み重ねによって基本給が上下する方式のことです。ポイントは、
①業績評価の「積み重ねである」
②基本給が「上下する」
という2点です。
まず①について考えます。以前紹介した評価替式は過去の業績評価に関係なく次年度の基本給が決まるという仕組みでしたので、今回紹介するスライド式とは全く異なるものであるといえます。業績評価を「積み重ねる」という意味では、等級号棒制に似ていますね。
しかしながら、②の基本給が「上下する」という点については、等級号棒制とは全く異なる仕組みであると言えます。
つまり、スライド式の基本給決定は、他の基本給決定の仕組みとは性質が大きく異なるものだと考えて頂ければと思います。
では、スライド式の基本給決定について更に詳しく説明していきたいと思います。しかし、この方式は他の仕組みと比べて説明が難しいので、具体例を通して説明していきたいと思います。
スライド式による基本給決定の具体例
スライド式の場合、例えば下図のような給与テーブルが設計されます。
まず、「給与エリア」というのは、1つの等級を中で分けたもののことです。この例でいうと、1つの等級をエリア1と2の2つに分けています。1の上の2が積み重なっている状態です。
次に、評価成績についてです。これはシンプルに、「B」の評価を受けた従業員はその数値の分だけ基本給が上がるという仕組みです。エリア1の水準の従業員が「B」の評価を受ければ、基本給は3,000円上昇します。
まだ分かりにくいと思うので、さらにグラフ化して考えてみます。
このような形です。エリア1からエリア2に移行する基準は、グラフの通り基本給額です。エリア1の従業員が評価「A」や「B」を取り続けていくとエリア1の基本給額の上限を突破し、その瞬間からエリア2に自動的に移行するのです。すると当然、次回の評価成績によってアップする基本給はエリア2の基準(「A」なら3,000円アップ)となります。
つまり、エリアが上がれば基本給が上がりづらくなる仕組みなのです。
イメージ頂けますでしょうか。今回の例でいえば、エリア2の従業員は評価「C」をとってしまえば基本給がダウンしてしまう可能性もあります。何度も「C」を取れば、自動的にエリア1へ落ちていくパターンもあり得ますね。
少し難しい仕組みですが、このように基本給アップによって自動的にエリアがスライドすることから、「スライド式」と呼ばれているのです。
スライド式を採用するメリット
スライド式は他の基本給の仕組みと比べ、設計が難しいです。しかし、採用するメリットとして、
・等級の滞留期間が長期化すること
・高いエリアにスライドした従業員は必然的に等級アップのモチベーションが高まること
などが挙げられます。等級の滞留期間が長期化することで、会社としては大幅な昇給を避けることができ、なおかつ成績が良い人と悪い人の基本給格差をしっかりと作ることができる仕組みなのです。
以上、スライド式の基本給決定について、具体例を考えながら説明しました。少しイメージしづらい部分もあったかと思いますが、もし不明な点等あればご質問頂ければとおもいます。
人事制度の中でも賃金制度については従業員の方も特に重視する項目ですので、会社設立や人事制度再構築の際はしっかりとした制度を設計することが重要です。
[まとめ]
・スライド式とは、毎年の業績評価の積み重ねによって基本給が上下する方式のことである
・比較的設計が難しい分、等級の長期滞留化や基本給の甘辛付けがしっかりとできるという点でメリットがあるといえる
人事制度にお悩みの経営者や管理職の方、こちらのホームページからのご相談お待ちしております。
「木村税理士・行政書士事務所」