これから公務員を目指すという方や、現在公務員であって昇格試験を控えているような方にとって、給与や年収は気になるところかと思います。しかし、公務員の年収や給与はデータが公開されているものの、非常に分かりづらいイメージがあるのではないでしょうか。実際に、給与や年収が1つのグラフなどにまとまった資料は公開されておらず、計算するのも時間がかかります。

そこで本記事では、地方公務員、特に特別区(東京23区)に焦点を絞り、給与や年収をモデルケースと共に解説していきたいと思います。皆様のキャリアプランや人生設計の一助となれば幸いです。

なお、本記事は【詳細版】として地方公務員の給与算定について詳しく説明しております。給与や年収の結果だけ知りたいという方は、以下の【概要版】の記事をご確認ください。



※本記事は、令和2年5月時点での条例等を基に作成しております。

例月給与(月給)の区分

地方公務員の例月給与(いわゆる月給)は大まかに、以下のような区分によって構成されています。

地方公務員の給与

例月給与=給料+手当


ここで、勤続年数によって大きく変わってくるのは「給料」の部分です。手当の部分は、役職や生活形態などによって変わってくると思って下さい。

それでは、「給料」と「手当」について、順番に説明していきます。

給料

正しくは「給料月額」などと呼ばれています。これは特別区事務職員の方の場合、給料表によって決定されます。
給料表(人事委員会ホームページ)

給料月額


こんな形式です。例えば、「1級1号」という方ならば、給料月額は「141,300円」となるという形です。このような給と号によって給料を決定する制度を「等級号棒制」と言います。比較的古いタイプの会社によくみられる制度ですが、公務員の場合は等級号棒制が採用されているケースがほとんどです。


次に、毎年の昇給(号が上がること)ですが、地方公務員の場合4号昇給が基本です。
現役の職員の方ならお分かりかと思いますが、余程のことがない限り4号昇給となります。私は以前東京都の教育公務員として勤務しておりましたが、職場でも4号以下の昇給となった方を見たことがありません。(4号より上の昇給は見たことがありますが、こちらもほぼありません)


一応ですが、考課成績と号の上昇幅の対応は以下の通りです。

・最上位(+6号)
・上位(+5号)
・中位(+4号)
・下位 (+1~3号)
・最下位(昇給なし)



殆どの場合は中位の4号昇給ですので、「1級1号」の方は来年度「1級5号」になるといった形になります。



次に、「昇格」についてです。昇格とは級が上がることを指します。
特別区公務員の場合、等級と役職との関係は以下の通りです。

・1級:主事
・2級:主任主事
・3級:課長代理(補佐)
・4級:課長
・5級:部長



したがって、役職が上がる(選考試験に合格する)と等級が上がる(昇格する)と思って頂ければと思います。

ちなみに、大卒ストレート23歳で特別区職員となった方(Ⅰ類B)の場合、1級29号からスタートしますので、初任給(給料月額)は183,700円です。

※大変紛らわしいのですが、本来1級29号の給料月額は184,100円です。しかし、1級29号の新卒者の給料月額は183,700円とするという特例があるため、このような金額となります。2年目以降は、本来の給料月額に乗ります。

手当

手当の種類は主に5種類で、「地域手当」「管理職手当」「扶養手当」「住居手当」「その他手当」です。

地域手当

地域手当とは、地域による物価の違いなどを対象して支給される手当です。

一般企業で言うところの大都市手当です。
23区および多摩地区について、
(給料+扶養手当+管理職手当)×20% が支給されます。

ここでいう給料は、先ほど説明した給料月額(等級と号棒で決まるやつです)のことを示します。
ちなみに、都外地区では12%支給されます。また、島しょ地域では地域手当が支給されませんが、その代わりへき地手当が支給されます。

地域手当は20%と大きな金額が加算されるため、特別区職員の手当の中でもメインとなるものです。

管理職手当

管理職手当は、課長以上の役職に支給される手当です。特別区職員の方の場合、「担当課長」「担当部長」の管理職手当が主な対象となります。

・担当課長:89,600円
・担当部長:126,900円



後程説明しますが、この管理職手当は単純に月給に上乗せされるだけでなく、地域手当の計算にも含まれるため、2重の意味でもらえる給与が大きくなります。

扶養手当

扶養手当は、家族構成によって支給される手当です。支給額はおおまなに以下の通りです。

・子ども:9,000円(1人増えるにつれ4,000円加算)
・子ども以外の扶養親族:6,000円



このようになっています。しかし、今回の記事ではあくまでもモデルケースを基にした一般的な給与計算ですので、扶養手当は対象外とします。

住居手当

住居手当は、34歳以下の世帯主に対して支給される手当です。支給額は15,000円です。

住居手当についても扶養手当と同様に、今回は対象外とします。

その他手当

ここまで説明した地域手当、管理職手当、扶養手当、住居手当のほかにも、様々な手当が存在ます。例えば、「通勤手当」「単身赴任手当」などです。

これらの手当も生活形態によって大きく異なってきてしまうため、今回の記事では対象外としたいと思います。


それでは、モデルケースを基にした給料月額の解説を行っていきます。

給料月額のモデルケース

確認となりますが、給料月額とは「〇級〇号」のような形で決定される給料表に規定された金額の事です。実際に月当たりに貰える金額は「例月給与(月給)」として後に説明しますので、区別して頂ければと思います。

また、今回モデルケースを基に計算を行うに当たり、以下の仮定・設定をします。

・大卒23歳で特別区職員になったとする
・毎年の昇給は4号とする
・昇格は東京都人事委員会HPのケースを参考とする



このような仮定・設定の下、給料月額のモデルケースは以下のようになります。

地方公務員・特別区の月例給与

(例えば、グラフの「50歳部長」とは、50歳で部長になる方の給料月額モデルカーブという意味です)

このような形です。給料月額は、課長に昇格した時と部長に昇格した時に大きく上がっていることが分かりかと思います。一般企業でも、このように管理職になるためのモチベーションを付ける意味合いで、管理職昇格の際の昇給額を大きく設定するのが主流となっています。


それでは、各モデルについて給料月額を確認していきます。

23歳主事の給料月額

23歳主事の給料月額は183,700円です。

先程説明した通り、1級29号からスタートしますが、初任給だけは183,700円と固定額が設定されています。

28歳主任主事の給料月額

28歳で主任主事に昇格した場合、給料月額は221,300円です。

23歳主事(1級29号)が27歳になると、毎年4号昇給として1級45号となります。この状態で2級に昇格すると「2級45号」になりそうですが、これは大きな間違いです。他のサイトなどでこのような号棒を持ち越した昇格を説明しているページがありますが、これですと主任主事の年収がものすごく大きくなってしまいます。


実は、1級45号の職員は、2級になると13号になるのです。

「どっから13号という数字がでてきたんだ!」と思われるかと存じますが、これはこちらの規則に規定されています。
「初任給、昇格及び昇給等に関する規則」 昭和53年4月1日 特別区人事委員会規則第18号 (平成31年4月26日施行

この規則によって、昇格前に〇号だった人は、昇格後に〇号に移行するというルールが決まっています。この仕組みが、地方公務員の給料を分かりにくくしている1つの原因であると個人的には思っています。

35歳課長代理(補佐)の給料月額

35歳で課長補佐に昇格した場合、給料月額は274,500円です。

28歳で2級13号だった主任主事が34歳まで4号昇給をした場合2級37号となります。2級37号が3級になると25号へ移行しますので、3級25号の給料月額として、この274,500円が算定されます。

まだ給料月額ががくっと上がった実感はありませんね。大きく上昇するのは、次の課長昇格です。

45歳課長の給料月額

45歳で課長に昇格した場合、給料月額は415,900円です。

金額が大きく上昇していることが分かるかと思います。算定根拠ですが、35歳課長代理(3級25号)が44歳まで4号昇給すると3級61号となります。そして、3級61号が4級に昇格すると4級53号へ移行するのです。

50歳部長の給料月額

50歳で部長に昇格した場合、給料月額は508,900円です。

課長代理から課長への昇格の際と同様に、課長から部長への昇格も昇給額がかなり大きくなっていることが分かるかと思います。ちなみに、ここでシミュレーションした給料月額については、およそ東京都人事委員会のホームページで公開されているものと整合性がとれていますので、確認して頂ければ幸いです。
人事委員会ホームページ「例月給与モデル」
(もちろん、人事委員会のページには賃金カーブや算定根拠は記載されておりませんので、参考として見て頂ければと思います)

例月給与(月給)のモデルケース

それでは、これらを踏まえて実際に支給される月給について考えていきたいと思います。実際に支給される月給を「例月給与」といいますが、例月給与は以下の式で算定されます。


例月給与=給料月額+地域手当+管理職手当

※重ねてとなりますが、扶養手当など生活形態によって大きく異なるものは対象外としております。


式の右辺の1つ目が、先ほどまで解説してきた給料月額です。そこに、地域手当(管理職の場合は管理職手当も)を加算することによって例月給与が算出されます。ここで、地域手当の計算式は以下の通りです。


地域手当=(給料月額+管理職手当)×20%


このように、管理職手当は地域手当にも算入されるため、インパクトが非常に大きい手当であることが分かります。

それでは、実際の例月給与について解説していきます。上記の式に基づいた例月給与のモデルカーブは以下の通りです。

地方公務員・特別区の例月給与

先程の給料月額の賃金カーブと比べて、課長へ昇格した際の昇給幅がさらに大きくなっていることが分かるかと思います。これが、管理職手当のインパクトなのです。


では、例月給与についてモデルケースごとに解説していきます。

23歳主事の例月給与

23歳主事の例月給与は、220,440円です。

確認ですが、例月給与の算定式は、
・例月給与=給料月額+地域手当+管理職手当
※地域手当=(給料月額+管理職手当)×20% です。

この式に基づいて計算すると、
例月給与=183,700+183,700×0.20=220,440 となります。

(給料月額183,700円については、先ほどの23歳主任給料月額の箇所をご確認ください)

28歳主任主事の例月給与

28歳で主任主事に昇格した場合、例月給与は265,560円です。

算定式は、2級13号の給料月額221,300円をベースとして、
例月給与=221,300+221,300×0.20=265,500 となります。

35歳課長代理(補佐)の例月給与

35歳で課長補佐に昇格した場合、例月給与は329,400です。


算定式は、3級25号の給料月額274,500円をベースとして、
例月給与=274,500+274,500×0.20=329,400 となります。

45歳課長の例月給与

45歳で課長に昇格した場合、例月給与は606,600円です。


課長以上の役職は例月給与の計算に管理職手当が算入しますので、もう一度計算式を確認します。
例月給与の計算式は、
・例月給与=給料月額+地域手当+管理職手当
※地域手当=(給料月額+管理職手当)×20% でした。

ここで、課長(担当課長)の管理職手当は89,600円ですので、45歳課長の例月給与は4級53号をベースとして以下のように算出されます。

例月給与=415,900+(415,900+89,600)×0.20+89,600=606,600

50歳部長の例月給与

50歳で課長に昇格した場合、例月給与は762,960円です。


部長(担当部長)の管理職手当は126,900円ですので、50歳部長の例月給与は5級2号の給料月額508,900円をベースとして以下のように算出されます。

例月給与=508,900+(508,900+126,900)×0.20+126,900=762,960


年収のモデルケース

続いて、年収についてモデルケースを基に解説していきたいと思います。

年収の計算方法は、おおまかに以下の通りとなります。
年収=例月給与(月給)×12か月分+期末・勤勉手当

ここで問題となるのが、期末・勤勉手当についてです。期末・勤勉手当はいわゆるボーナスと呼ばれるもので、6月と12月の年2回支給されます。
ちなみに、
・6月の支給については「支給日6月30日」「基準日6月1日」
・12月の支給については「支給日12月10日」「基準日12月1日」

となっています。支給日が実際に支給される日、基準日は期末・勤勉手当の金額の算定基準になる日のことを指します。


期末・勤勉手当の計算についてですが、例月給与の4か月分として算定したいと思います。

実際の期末・勤勉手当は〇か月というように、決まった値はありません。以下のような計算式で求められます。

・期末手当:(給与の月額+扶養手当+地域手当+職務段階別加算額)×支給率×支給割合
・勤勉手当:(給与の月額+地域手当+職務段階別加算額)×期間率×成績率


ここで問題となるのが、勤勉手当の成績率です。成績率は一般職員の場合0.9225月~1.4500月、課長代理の場合0.91225月~1.5500月、課長の場合0.0000月~2.1500月、部長の場合0.0000月~1.9500月というように幅が設けられています。つまり、あらかじめ確定的な数値を求めることはできません。


問題は、期末・勤勉手当を例月給与の4か月分とみなす精度についてですが、基本的に地方公務員のボーナスは4か月というのが現場では一般的にいわれています。(私自身、2級17号だった時の例月給与269,892円(通勤手当や住居手当等を除く)、1回あたりの期末・勤勉手当が570,732円でしたので、1回あたり2.1か月の支給でした。2回分でおよそ4か月となりますね)

※期末・勤勉手当の計算についてさらに詳しく知りたいという方は、以下の記事をご確認ください。教育公務員用の記事ですが、特別区職員も同様の考え方となります。
東京都教員のボーナス計算:成績率や初任額、いつ支給されるかを解説

このような背景から、期末・勤勉手当は例月給与4か月分として算出したいと思います。つまり、年収は例月給与の16か月分として計算できるという事です。

その結果、モデルケース別の年収額が以下のグラフになります。

率直な感想として、課長級以上の年収額はかなりのものになるという印象ですね。課長に昇格したあたりから、年収1,000万円が見えてきます。特別区職員の年収は、課長級以上か否かで大きく異なってくるということになりそうです。

それでは、モデルケース別の年収額についてそれぞれ解説していきます。

23歳主事の年収

23歳主事の年収額は、3,527,040円です。

計算式は、23歳主事の例月給与220,440円×16か月分 です。例月給与の金額については、記事上部で説明しておりますので、そちらをご確認頂ければと思います。

28歳主任主事の年収

28歳で主任主事に昇格した場合、年収額は4,248,960円です。

計算式は、28歳主事の例月給与265,560円×16か月分 です。

35歳課長代理(補佐)の年収

35歳で課長代理に昇格した場合、年収額は5,270,400円です。

計算式は、35歳課長代理の例月給与329,440円×16か月分 です。

45歳課長の年収

45歳で課長に昇格した場合、年収額は9,705,600円です。

計算式は、45歳課長の例月給与606,600円×16か月分 です。

50歳部長の年収

50歳で部長に昇格した場合、年収額は12,207,360円です。

計算式は、50歳部長の例月給与762,960円×16か月分 です。


以上、特別区地方公務員の給料月額、例月給与、年収について説明しました。もう一度最後におさらいすると、

・給料月額:給料表に記載されている金額。「〇級〇号」という形式で決定。
・例月給与:毎月実際に支給される金額。月給。
・年収:毎年実際に支給される金額。ボーナスを含む。


という使い分けですので、ご確認ください。特に給料月額と例月給与は混乱しやすいので、記事を読む際もご注意ください。

ライフプランや相続に関するお悩みは当事務所にご相談ください


以上、特別区職員の給与や年収カーブついて解説しました。他自治体の職員もおおよそこのような給与や年収カーブ構造になると思いますので、初任給の割合を給与や年収カーブに乗ずるなどして、ご自分の自治体の給与や年収カーブを概算することができるかと思います。参考にして頂ければ幸いです。

なお、当事務所は、税理士や1級ファイナンシャル・プランニング技能士(1級FP技能士)として、相続税や贈与税の申告、相続に関する税金シミュレーション、相続前の税金対策、遺言書作成支援などを業務として行っています。

自治体職員として働いていく上で、ご家族の相続が発生した、将来の相続に備えたい、遺言書を作成したい、ライフプランを考えたい、等々のお悩みがあると存じます。フルタイムで働きながらこれらの対策を専門的に行っていくのは、時間的観点からも、知識的観点からも難しく、かつリスクが高いといえます。

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