令和5年から、消費税の計算(仕入税額控除)について「適格請求書等保存方式」いわゆるインボイス制度がはじまりました。インボイス制度はかなり複雑な制度であり、とりあえずインボイス登録をしてしまったが、実際のところ制度内容をよくわかっていない、という方も多いのではないかと思います。何より厄介なのは、インボイス登録をすることによって消費税の申告義務が生じる(消費税の申告をしなければならない)ということです。
また、消費税の申告が必要となった場合、「本則課税」「簡易課税」の選択が重要となります。
そこで、当記事では、消費税の計算方法の1つである「簡易課税制度」について、本則課税と比較して税額がどう変化するのか、お得なのか等につき、税理士が簡潔に説明していきます。
なお、簡易課税が適用できる要件については、以下のリンク記事をご覧ください。
簡易課税制度について
消費税額の計算方法とは?
簡易課税制度を理解する上で、まず消費税額の計算方法について知っておく必要があるので、さらっと説明していきます。
納付すべき消費税額は、次のような計算式で産出されます。
納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー仕入れに係る消費税額
たとえば、売上高が税込110万円、仕入高が税込11万円のケースを考えましょう。この場合(本則課税の場合)、売上げに係る消費税額は10万円(=110÷1.1)、仕入れに係る消費税額は1万円(=11÷1.1)ですよね。したがって、納付すべき消費税額は、10万円ー1万円=9万円となります。
このように、消費税の計算は、売上に関する消費税額から、仕入に関する消費税額を差し引くというものなのです。
これを踏まえて、簡易課税制度について説明していきます。
簡易課税制度とは?
簡易課税制度とは、売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度です。
ここで、先ほどの計算式を思い出しましょう。納付すべき消費税額の計算式は、次のようなものでした。
納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー仕入れに係る消費税額
簡易課税制度は、上記式の「仕入れに係る消費税額」を「売上げに係る消費税額」を基に計算することができるという制度なのです。
実務で考えてみると、仕入れに係る消費税額の計算は大変です。そこで、この簡易課税制度が適用できる場合には、この大変となる仕入れに係る消費税額の計算をシンプルに行うことができる、というイメージとなります。
具体的には、簡易課税制度の場合、仕入れに係る消費税額を次のような計算式によって計算することになります。
仕入れに係る消費税額=売上げに係る消費税額×事業区分に応じて定められたみなし仕入率
「みなし仕入れ率」という単語がでてきましたね。これは、事業の区分に応じて、「このような事業の場合は、売上に対する仕入の比率はこれぐらいだろう」と国が定めた割合のことをいいます。具体的な事業区分とみなし仕入れ率は次のとおりです。
・第1種事業(卸売業):90%
・第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)):80%
・第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業):70%
・第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業):60%
・第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)):50%
・第6種事業(不動産業):40%
少し細かく感じられるかもしれませんが、このような規定となっています。ご自分の事業に該当するものを確認してみて下さい。ちなみに、当方の税理士業務は第5種事業に該当しています。
本則課税と簡易課税はどちらがお得か?
では、本題の「本則課税」と「簡易課税」の税額の差について考えてみましょう。
ここまでの内容をざっくりとおさらいすると、消費税額の計算について、本則課税と原則課税は次のような違いがありましたね。
【本則課税】
・納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー仕入れに係る消費税額
【簡易課税】
・納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー(売上げに係る消費税額×事業区分に応じて定められたみなし仕入率)
つまり、本則課税と簡易課税の消費税額の差は、2つめの項(マイナスの項)によって現れることになります。よって、シンプルに考えてみると、「仕入れに係る消費税額が大きければ本則課税が有利で、仕入れに係る消費税額が小さければ簡易課税が有利」ということになります。
例を挙げて考えてみましょう。次ような会社を想定して消費税額の違いを計算してみます。
・売上高:1100万円(税込)
・仕入高:110万円(税込)
・水道光熱費:11万円(税込)
・業種:小売業
この会社について、本則課税と簡易課税でそれぞれ税額を計算してみます。
【本則課税の場合】
・納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー仕入れに係る消費税額=100万円ー10万円ー1万円=89万円
【簡易課税の場合】
・納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー(売上げに係る消費税額×事業区分に応じて定められたみなし仕入率)=100万円ー(100万円×80%)=20万円
このように、この会社の場合は売上高に対して仕入高・水道光熱費の金額が小さいので、簡易課税の方が本則課税と比べて69万円も有利だということになります。
ここで、しっかり記事を読まれている方でしたら、「利益が大きければ簡易課税が有利で、利益が小さければ本則課税が有利ということだな」と思われるかもしれません。イメージとしてはこれでもよいのですが、この考え方は非常に危険です。
これは、利益が小さくても、「売上げに係る消費税額ー仕入れに係る消費税額」の値が大きいというケースは往々にしてあるからなのです。
どういうことかというと、先ほどの会社のケースでは、経費は全て税込(課税される経費のみ)でしたね。では、次のようなケースだとどうなるでしょうか。
・売上高:1100万円(税込)
・役員報酬:900万円
・業種:サービス業
この会社について、本則課税と簡易課税でそれぞれ税額を計算してみます。
【本則課税の場合】
・納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー仕入れに係る消費税額=100万円ー0円=100万円
【簡易課税の場合】
・納付すべき消費税額=売上げに係る消費税額ー(売上げに係る消費税額×事業区分に応じて定められたみなし仕入率)=100万円ー(100万円×50%)=50万円
このように、利益が小さいにも関わらず、本則課税より簡易課税の方が50万円有利という結果になっています。これは、人件費は非課税のため、本則課税の計算において「仕入れに係る消費税額」として控除できないため生じた結果です。
以上、消費税の「簡易課税制度」について説明しました。当記事では簡易課税と本則課税の税額の違いについて解説しました。取り上げたケースは非常にシンプル化した会社でしたが、実際の会社は課税・非課税・不課税の取引が複雑に生じ、どちらが有利かといった計算は当然ながら非常に難解です。また、簡易課税の方が一般的には消費税の計算が簡易ですが、売上の種類が多岐にわたる場合では逆に難しくなってしまうような場合もあります。
この記事を読んだ方の中には、令和5年度以降の申告について、インボイス登録をしてしまったために消費税の申告が必要になってしまったという事業者の方も多いのではないかと思われます。消費税の申告は複雑であり、かつインボイス制度も相まって相当に難解な体系となっていることが知られています。
もし、ご自分でのご判断や申告が難しい、時間がないという方は、我々税理士にご相談いただければ幸甚です。以下、当事務所にご依頼を頂く場合の流れなどを説明します。
当事務所(税理士)へのご依頼について
資料のやりとりと記帳代行
当事務所は原則として、レシートや帳簿類を毎月ご送付いただき、それを基に毎月試算表を会社へ送付するという流れで業務を行っています。
したがって、いわゆる決算のみのご依頼というのは原則としてお受けしていません。決算のみのご依頼となると、決算前の会社の状態が分からないため税務相談に乗ることができないだけでなく、毎月処理すべき会計記帳などを1年分まとめて短期間のうちに処理しなければならないからです。ご理解下さい。(ごく小規模の事業者の方については例外もありますので、ご相談下さい。)
また、当事務所は、法人の申告とセットで記帳代行を基本としています。
記帳代行とは、複式簿記による会計帳簿を、会社ではなく当事務所で行うというものです。この記帳代行については、一切引き受けない税理士事務所も存在するなど、税理士が敬遠するケースも多いですが、むしろ当事務所はこの記帳代行を原則としてます。記帳を通して会社の現状を理解することができ、申告や税務相談に良い影響があると考えるからです。
したがって、「自分で会計処理を行っているので、決算だけお願いしたい」というようなご依頼は基本的にお受けしていません。会社の会計処理を当事務所で確認・修正するのに同等以上の手間や時間がかかるためですので、ご理解下さい。なお、従業員が相当数いる会社であったり、経理部がきちんとしている会社など、会社ご自身で会計記帳を行っていただいて何ら問題ないケース(すなわち自計化の方がよいケース)もありますので、ご相談下さい。
ご依頼いただいた場合の毎月の流れ
①月初の資料のご送付
前月1か月分のレシートや、売上台帳などの帳簿、通帳などの資料を当事務所にご送付いただきます。ご送付は、紙媒体の他、電子データのメール送付などでもお受けしています。
②当事務所での記帳処理
①でご送付いただいたデータを基に、当事務所にて会計記帳を行います。
③試算表の送付
②の当事務所での記帳処理が完了し次第、試算表(収益、費用、利益、資産、負債の現況や推移をまとめた表)を会社へ送付します。
④決算と申告
①から③を1年分繰り返したのち、当事務所にて決算処理及び申告を行います。
このように、依頼者の方(会社)とのやりとりを密に1年の作業を進めていきます。
当事務所に法人に関する申告や記帳代行等を依頼するメリット
当事務所に法人に関する申告や記帳代行をご依頼・ご相談される場合、自力でこれらを行う場合と比較して、以下のようなメリット・特徴があります。
専門家たる税理士として検討・申告を行うこと
当方は、税金に関する計算や手続の専門家たる税理士として活動しています。したがって、法人に関する申告や届出等の税務について、丁寧かつ適格に計算や手続の遂行を行うことが可能です。
中小企業診断士として経営の観点を有すること
当方は、経営コンサルタントの国家資格者たる中小企業診断士の資格も活用して業務を行っているので、事業に関する経営面から知見から、相談等に対応することが可能です。
行政書士として各種許認可に関する相談にも乗ることもできること
当方は上記資格に加え、各種許認可申請の専門家たる行政書士としても活動しております。したがって、開業や新規事業に当たって必要となる許認可などの相談にも専門的知見からご相談に乗ることができます。
依頼者の方が抱えられている不安を少しでも解決できればと、その一助になれればと思っております。
大きくこの3点が、当事務所に法人に関する申告や記帳代行等を依頼するメリットだと自負しております。
当事務所へご依頼いただいた場合の料金
当事務所は、法人に関する申告や記帳代行として、次の通り料金を頂いています。
1.基本料金
以下、毎月の記帳代行や決算申告の料金となります。なお、会社規模や取引規模に応じて増額しますので、詳細につてはご相談下さい。
・毎月:2万円~
・決算及び申告:毎月の料金の5か月分
2.その他料金
・法定調書、償却資産税申告:1件あたり1.5万円
・年末調整:1人あたり3000円
・異動届、消費税簡易課税制度選択届出など各種届出:5000円~ 等
なお、給与計算、税務調査立会など、その他業務については実態に応じて金額を検討しますので、ご相談下さい。
法人・個人に関する申告や記帳代行は当事務所にご相談ください
以上、消費税の簡易課税制度や、当事務所にご依頼いただいた場合の流れや料金等について説明いたしました。
当方は、税務の専門家たる税理士の資格を中心として、中小企業診断士や行政書士など各種分野の専門家たる資格を活用して業務を行っております。また、依頼者の方とのコミュニケーションを重視して業務を遂行しています。
一般的に、税理士への法人に関する依頼となると、長い付き合いとなることも多く、初めてのご相談やご依頼には不安も大きいと思われますが、どうぞ安心してご相談・ご依頼頂ければと思っています。
申告や記帳代行など、法人の税務に関するご依頼はぜひ当事務所にお任せ下さい。
業務のご依頼やご相談は、下記お問い合わせフォームからお待ちしております。
お問合せをお待ちしています。
事務所代表プロフィール
氏名:木村 成(きむら じょう)
保有資格:
・税理士
・行政書士(行政手続、法律書類作成の国家資格者)
・中小企業診断士(経営コンサルタントの国家資格者)
・1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)
・気象予報士
業務内容:
東京都銀座にて、中小企業・小規模事業者の方の支援を業務として行っております。税理士としては法人や個人の申告代理、相続関連業務など、行政書士としては告訴状作成、会社設立に係る定款作成認証や営業許認可申請の代理など、中小企業診断士としては経営コンサルティングを中心に活動しております。税理士・行政書士・中小企業診断士の3つの資格を活用して、税務面・法務面・経営面の3つの視点から、依頼者の方の支援を行っております。
誠心誠意、迅速かつ丁寧な対応をモットーに活動しております。
皆様のご相談、ご依頼をお待ちしております。